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[瀧波ユカリさんインタビュー 前編] 失敗した産院選び。怒りは産後2年たった頃にやってくる!?

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大人気漫画『臨死!! 江古田ちゃん』でおなじみの瀧波ユカリさんは、2010年9月に女の子を出産。育児エッセイ+漫画の『はるまき日記』では、生後2ヶ月から14ヶ月になるまでの新米夫婦の奮闘ぶりや爆笑エピソードが満載です。
インタビュー前編となる今回は、気になる出産秘話を振り返ってもらいました!

 

三畳の陣痛室、パン一枚の朝ご飯に「独房」気分

職業柄、どんな痛みでも経験していたほうがいいかなと思って、何も問題がなければ自然分娩で産もうと決めていました。それよりも迷ったのは産院選びです。家から1時間以内に行ける範囲に分娩可能な産院が3つあり、第一候補はNICUなどの設備も整っている大きな病院。でもそこはいつも混んでいてなかなか予約がとれないことで有名でした。他の候補は、ちょっとセレブ向けのお高めな個人病院と、少し交通の便の悪い所にある古くて中規模の産婦人科。安くて混んでないならいいかも、と軽い気持ちで中規模のところを選んだのですが、そこが本当に“昭和”な病院だったんですね。

予定日を一日過ぎた夕方、陣痛が10分間隔ぐらいできたので電話したら、「3、4分間隔になったら来てください」って言われて。ひたすら陣痛をやり過ごす辛い時間を過ごし、夜中の2時ぐらいにやっと病院に行きました。これでリラックスした状態でお産を待てる!と期待していたのですが、陣痛室が三畳ほどの小さな和室で、落ち着くように薄暗くしてあるので、ちょっと「独房みたい……。」と思ってしまって。もちろん施設としてはまったく問題ないのですが、陣痛に耐えているうちに私の期待が膨らみすぎていたんですね。なかなかリラックス出来なくて、「一刻も早くここを出なければ!」と心に誓いました(笑)。

苦しみながらも密かに楽しみにしていた朝ご飯は、温めても焼いてもいない個包装のパン一枚にピーナツバターだけの簡素なもので、そこでまた「独房飯……。」と思ってしまって(笑)。代わりに持参したカロリーメイトを陣痛の合間に食べることにしたのですが、結局痛みで食べられず、半分かじって1時間ぐらい手に持ったまま唸ってました。カロリーメイト、最後は生温かくなってましたね……。

陣痛のとき好きな音楽を聴くといいかなと思って、ゆったりした感じのCDも持っていったんです。でもあの痛みの前ではそんなもの何の役にも立たなくて。音楽でどうにかなると思っていた自分に腹が立って、途中で聴くのをやめました(笑)。

 

21時間に及ぶ出産。あまりに疲れて赤ちゃんの抱っこも「後でいいです」

朝9時頃に破水したあと、分娩台に移ってからも子宮口が全開になるまでが長くて、死ぬ思いでひたすら陣痛に耐えました。「いきんでいいですよ」って言われたのが14時頃。いきみかたは母親学級で習っていたので、わりとスムーズにできました。そのときは助産師さんだけでなく担当医も来てくれて。「いきんでいいですよ」といわれていきんで、「いいですね!」って言われるとすごく嬉しくて。それまで痛みを我慢するだけだったので、自分のがんばりを褒められることが、こんなに嬉しいとは思いませんでした。「やっと評価されるときがきた!」っていう感じで、いきみのタイミングもうまくつかんでいったんです。「今のであってますよ」と言われるとすごい達成感で、「もっと期待に応えたい!」とがんばりました。松岡修造さんに褒められて伸びていく生徒のような、あの感じですね。人は褒められると伸びるんだなって思いました。

出産したのは、15時頃。最初に陣痛がきてから21時間くらいかかりました。生まれた直後に「赤ちゃん抱っこしますか?」っていわれたんですけど、あまりにも疲れて「後でいいです」って。「やっと生まれた!」というより正直、「やっと終わった!」という感じでしたね。

すごく助かったのは、最初から最後まで夫が冷静だったことです。生まれるまでずっとそばでサポートしてくれたんですが、私がいくら痛がっても慌てふためくことなく、陣痛の合間の水分補給の仕方とか、背中のさすり方とか、ちょっとずつ上達していって。こっちはどんどん余裕がなくなっていくので、それに反比例するようにしっかりサポートしてくれたのは、本当にありがたかったですね。私が平常じゃない状態にはじめて直面しても、ちゃんとまわりの状況をみながら、的確な判断をしていたので、「この人だったら子どもをまかせても大丈夫だろうな」とも思いました。育児エッセイの『はるまき日記』にもいろいろ書いてるんですが、私がすごく慌てふためくタイプで、夫は常に冷静なタイプなので、いろんな意味で助かっています。

分娩のとき出血が多かったみたいで、生まれたあともしばらく毛布をかけてもらって休みました。赤ちゃんを連れてきてもらったのはその後です。母乳ははじめはすんなり出てくれなくて、赤ちゃんの体重もぜんぜん増えなかったので、糖水を少しあげたりしていました。授乳室にも行ったんですが、そこで仲良く話をしているお母さんたちの輪に入れなくて、早速ママ友問題にも直面しました(笑)。

 

「それってお母さんが楽したいってことですか?」看護師さんの言葉に涙

産後3日目ぐらいにおっぱいがパンパンに張って、絶え間ない激痛に悩まされました。看護師さんが冷湿布用のアイスノンを持ってきてくれるんですけど、そっけなく「はいどうぞ」って言うだけで、あんまり心配してもらえなかったですね。「なんでそんな捨て犬に情を移したくないような態度なの?」と思いました。産後は本当に疲れているので、やさしくしてもらえるかどうかってすごく重要なポイントだと思います。でもそういうことって、その産院で産んだ人の話を聞かないとわからないし、そのとき担当してくれる看護師さんにもよるので、なかなか難しいんですよね。

今でも覚えているのは、母子同室で大変だったら赤ちゃんを預かってくれると聞いていたので、睡眠不足が続いてつらかったある日の夜、「ちょっと見てもらえますか?」ってお願いしたんです。そしたら、「それってお母さんが楽したいってことですか?」って言われて、ものすごい打撃をくらってしまって。母親失格と言われた気がして、一晩中落ち込んで泣きました。もし2人目が生まれて同じこと言われたら、「楽したいですよっ!!!」って言い返したいです。

産後しばらくは、子どもの世話で余裕がないので考える暇がなかったのですが、2年ぐらい経ったころに冷静に思い出したら無性に腹が立ちましたね。もちろん悪いことばかりではなくて、松岡修造的コーチングで産めたのはすごく良かったし、優しいスタッフさんもいましたが、また同じところで産みたいかというとNOですね。もし次があるなら、もっとしっかり下調べしようと思います。産院のこともそうですけど、子育てにも慣れてきて、他のお母さんたちの体験談なんかを聞くようになると、自分のときと比較して、いろいろ気づかされることが多いですね。

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瀧波ユカリさん
漫画家、エッセイスト。1980年札幌市生まれ。2004年、『臨死!! 江古田ちゃん』でデビュー。現在は『月刊アフタヌーン』に「あさはかな夢みし」を連載中。その他、著書に『偏愛的育児エッセイ はるまき日記』、『女もたけなわ』、『オヤジかるた』、対談本『女は笑顔で殴りあう』などがある。

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編集/山上景子 文/樺山美夏

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