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陣痛の痛みと恐怖感を40%は無駄に引き上げる!臨月になると出現する『痛いよ~族』に辟易 by 田房永子

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​ 生まれた時から、周りの大人達から、足が太いとか尻がでかいとか、顔がでかいとか、言われて育ってきました。20代になっても言われるので、そこまで下半身が太いんなら骨盤やら何からが強靱に決まってるし、自分は絶対に『安産』だと思っていました。

 

 そして33歳で出産することになった時、「私の“ケツでか女”としての集大成の作業になる!」という意気込みが湧いてきたのです。

 だって、それまでは尻がでかくてよかったことなんて、ひとつもなかった。いつもからかわれるだけ。ビキニなんて着たことない。私みたいな体は隠しておかなければ海に来ている皆様に失礼だと、卑屈な青春を過ごしてきた。

 そんな自分が安産でなかったら、神様っているんでしょうか? とにかく私は「自分が安産でないはずがない」と自信満々でした。

 

 普通でも安産なはずだから、これはもう、トップオブ安産を目指すしかない。近所の助産院で安産講座をやっている情報を聞きつけ、安定期に入ってすぐ通い始めました。

 講座に参加している妊婦さんたちは、ほぼみんな、その助産院で生んだことのある人でした。助産院は、自然分娩で安産でないと生めないところ。その人達が語る分娩体験が、私には衝撃的でした。

 なんと、ほぼ全員が「痛くなかった」と言うんです。

 小学生の頃から、「出産は痛い」と当たり前に教わってきて、その事実は決まったものだと思ってた。『安産』の人はただ「生まれるまでの時間が早い」だけで、陣痛の痛みはみんな均一なんだと思っていました。だから、私の『安産』は早く生むことで陣痛の時間を減らす、みたいなことでした。

 だけど、助産院で出会った経産婦さんたちは「あんまり痛くなかったんだよねえ」とポカンとした感じで言っています。そういう環境にいると、どんどん「陣痛ってそんなもんか」という意識に変わっていき、「どのくらいの痛みなのかなあ。楽しみだなあ」と思うようになってきたのです。

関連情報:痛い?痛くない?みんなの陣痛体験記はこちら 

 

 おかげで私は妊娠中、出産への不安はほとんどない状態で過ごしていました。しかし、臨月になった時、事態が急変します。『痛いよ~族』に出会う機会がグッと増えるのです。

 『痛いよ~族』とは、「来月生まれる予定です」と言っただけで「陣痛、痛いよ~」と返してくる人のこと。老若男女問わず、ものすごくたくさんいるので、「族」単位です。 「痛いよ~、覚悟してね~(笑)」と、なぜか「面白くて仕方ない」みたいな感じでクスクスしながら言ってくる『痛いよ~族』もいますし、一番多いのは「痛いよ~」とセットで「でも、○○だから大丈夫!」をつける『大丈夫族』です。

 「陣痛痛いよ・・・けど、大丈夫! 赤ちゃんは可愛いから!」とか、「痛いと思うけど、生んだらすぐ忘れちゃうから大丈夫」とか「私は帝王切開だったんだけど、そっちの傷のほうが痛いから大丈夫」とか。久しぶりに会った人、仕事で会った人、SNSのコメントで、街で会った見知らぬ人、しまいには男性も「陣痛って痛いらしいよね、でもがんばって」とか言ってきます。

 みんな悪気はない。「これから出産」という人に、どういう声かけをするかと言ったら確かにそのくらいしかないと思う。深い意味はないというのは分かる。でも「あなたは出産で痛い思いをする」と断定されると、こんだけ言われるんだから相当痛いに違いない、ってどんどんどんどん怖くなっていったのです。

 

 受験生には「落ちる」とか「すべる」とか言ったらダメ、失礼っていう決まりがあるのに、妊婦にはみんなバンバンに「痛い」だの「大変」だの終いには「陣痛も痛いけど生まれたらもっと大変」とか、「陣痛よりも、赤ちゃんとの生活のほうが発狂寸前になる。でもそれもいい思い出になるから大丈夫!」とか、ネガティブなんだかポジティブなんだかわかんないことを言いまくってきます。受験生よりも妊婦のほうが命に関わる可能性が高いことなんだから、気持ちが萎縮するようなことはもちろん、恐怖感を抱くようなことは言わない方が絶対いいのに

 海女体験とかシュノーケルとかやろうとしてる人に「水中は息ができないんだよ~、苦しいよ~、がんばってね~」とか言ってる人がいたら、どうですか。いまから新しいことしようとしてる人に、そんなこと言うなんて、すっごい性格悪い奴だなーって、私なら思う! 

 でも、妊婦への「痛いよ」「大変だよ」はオッケーになっているこの世の中。私はこの悪しき慣習が、全妊婦たちの、陣痛中の痛みと恐怖感を平均40%以上は無駄に引き上げてると思ってます。結構マジで!

 

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田房永子

1978年東京都生まれ。2000年漫画家デビュー、翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。コミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA中経)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。2作目『ママだって、人間』(河出書房新社)では、自身の妊娠・出産について執筆。妊娠中や0歳育児で感じた、母乳信仰や母性神話の不合理さについてのエッセイ『母乳がいいって絶対ですか?』(朝日新聞出版)など話題作を続々と発表中。

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