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[はるな檸檬さんインタビュー後編]母乳が出ず産後うつ寸前の状態に…。私を「ひとり」にしなかった夫に救われた

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『れもん、うむもん!――そして、ママになる――』で妊娠・出産の大変さをごまかすことなくリアルに描いたはるな檸檬さん。妊娠、出産のマイナートラブルの話に続き、後編では産後に直面したさまざまな問題について語っていただきました。母乳の悩み、心身の不調、ホルモンバランスの影響による情緒不安定……。産後うつ一歩手前ともいえる状態まで陥ってしまったはるなさんを救ったのはご主人の存在でした。

 

母乳って普通に出るものだとばかり思っていた 

——— 産後一番つらかったのは母乳問題ですね。赤ちゃんが上手に吸ってくれなくて、母乳の出も悪くて……。母親としてやるべきことをやってあげたいのにできないことの不安と葛藤が伝わってきました。

はるな檸檬さん(以下、はるな):産後、まだあちこち痛くて起き上がるのもしんどい状態なのに、すぐに赤ちゃんに母乳をあげなきゃいけなくて「ムリだよ〜!」と思ったんです。でも初乳が大事ってすごく言われるじゃないですか。だから、すごい頑張らなきゃという思いとそんなのムリっていう思いの乖離(かいり)が大きくて、引き裂かれるような状態でムリヤリ授乳していました。

 自分の命もしんどいけど、赤ちゃんも大事な命だからしょうがない、やらなきゃと思って。それなのに全然出ないのがまた辛くて。母乳って普通に出るものだとばかり思っていたから、人によって出ないこともあるということを事前に教えてほしかったです、ホントに。

 ———— そしてご主人と会話もできなくなるほど心身ともに疲弊してしまった。それなのに退院すると否応なく怒濤の日々がはじまります。

はるな:小さな赤ちゃんを抱っこして病院を出たときの不安や恐怖感は今でも忘れられません。「私ひとりでこんな小さい子を? 嘘でしょ?」という感じで。崖のてっぺんに立たされてるのに、「おめでとうございます」って言われているような気分でしたね。

 「おめでとうですか? これが?」みたいな。自宅に帰りついた瞬間「本当にはじまってしまった!!」って思いました。あらがいようのない大きな力に流されていくような気分でした。

 ————産後手伝いにきてくれた仲良しのお母様は、母乳のことがきっかけで大喧嘩して帰ってしまいます。当時のことはもう和解されましたか?

 はるな:母乳が出ないことで一番悩んでいるのに、「母乳が足りてない」と母親に指摘されて怒り狂ってしまって……今はもう仲直りしてお互いに謝ったのですが、当時の話題を蒸し返すことはないですね。私も傷ついたけど、母も傷ついたのだと思います。あの時の私は毎日泣いていて、保健所の診断でも「産後うつの傾向あり」と言われるほどでした。

そんな状況でも夫がずっと味方でいてくれたことはありがたかったです。そのことが母を傷つけたのかもしれない、とも思うのですが……。後で聞くと、私より早く出産をしていた夫の妹さんから「産後は親とケンカするかもしれないけど奥さんを一人にしないように気をつけてあげてほしい」と言われていたそうで、その妹さんにも本当に感謝しています。

 

産後うつ寸前のとき、私をひとりにしなかった夫に感謝

———産後ひとりにならないってすごく大事ですね。

はるな:その妹さんはすごくしっかりしてる子で、「だいじょうぶだよ」とかいろいろ声かけてくれたのも大きかったですね。一番救われた言葉は、「ミルクでもちゃんと育つし離乳食はレトルトでも全然OK!」と言ってくれたことです。たとえ個人の意見だとしても、それを言ってもらえたかどうかで精神的なストレスは全然違ったと思います。

———はるなさんが土下座して頼み込んだこともありますが、ご主人は休める日はできるだけ有給休暇をとって、産後1ヶ月の苦しみを一緒に乗り越えてくれました。

はるな:今でも、大変だった時期のことを思い出して二人で話します。夫に言われて覚えているのは、私が母親として命を預かることの責任が重すぎて怖くて「私なんかには無理だ」と泣き言を言った時、「未成年でもヤンキーでも立派に子育てしてるんだから大丈夫だよ」と返してきたことです。

ヤンキーの方には失礼な言い方かもしれませんが、昔からみんなやってるんだから、という意味で言ってくれたのは、楽にしてくれる言葉でもありました。「みんなやってるんだから私にもできる」と自分で自分の背中を押すきっかけになりました。

一方で、「赤ちゃん産んだ女の人はみんなこんな大変なことやってるの!?マジで!?」とびっくりもしました。街で綺麗な格好して歩いてるママさんとか普通にいるから「なんでそんなに綺麗にしてられるの…!?」とガン見してしまったり(笑)

 

どんなに辛くても苦しくても絶対キラキラした幸せを感じるときがくる

 ——— 産後うつにならないためには何が大事だと思いますか?

はるな:私の場合は、何か特別な出来事があったわけではなく、小さい要素がいっぱい積み重なっていったおかげで少しずつ救われていきました。それこそ夫の妹が話を聞いてくれたり、夫が産後1ヶ月なるべく仕事を休んで併走してくれて気持ちを分かち合えたことも大きかった。

 やっぱり自分のことをわかってくれる人が一人でもいることは大事だと思います。だから産後1ヶ月は妻も夫も仕事を休むって法律で決めてほしいぐらい。「子ども産まれたし、もっと仕事がんばるぞ!」という男の人もいますけど全然逆だと私は感じました。

 ——— そういう苦しみを乗り越えた頃、子どもを産んだ幸せを噛みしめる瞬間が描かれていて涙しました。

はるな:どんなに辛くても苦しくても絶対その瞬間がくるよっていうことも、このマンガで同時に伝えたかったんです。子どもがいると本当に楽しいし、こんなに毎日キラキラ輝いてときめいていられるなんて思っても見なかったので。子どもってとにかく可愛いんです。可愛くて可愛くて仕方ないので、毎日写メもいっぱい撮っています(笑)。

 ——— 最後に、読者の方へメッセージを。

はるな:どんなに情報があふれていても妊娠と出産は人それぞれなので、すべて自分で乗り越えなきゃいけないんですよね。そのことはよくわかっているんですけど、ただ話を聞いて一緒に泣いてくれる人がそばにいてくれたらもっと楽になれただろうなと私は思ったので、このマンガを描きました。妊娠・出産で精神的に不安定になるのはホルモンのせいでもあるので自分を責めずに、幸せな日々が必ず来ると信じて頑張ってほしいです。


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漫画家の東村アキコさんは「『テンパリスト』はただの息抜き。こっちはガチで参考になるから!」、作家の辻村深月さんは「この本のおかげで救われる人が必ずいます。」とそれぞれ『れもん、うむもん!』の帯に推薦文を寄せている。

「しんどいのは自分だけじゃない」、そう思えることでどんなに気持ちが楽になるか、この漫画を読んだ方はきっと実感するだろう。

 

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はるな檸檬(はるな・れもん)

1983年宮崎県生まれ。2010年、宝塚ヲタクを題材にしたWEB連載「ZUCCA×ZUCA」にてマンガ家デビュー。連載をまとめた『ZUCCA×ZUCA』は全10巻の人気シリーズとなる。その他の著書に自身の読書遍歴を描いた『れもん、よむもん!』や『タカラヅカ・ハンドブック』(雨宮まみとの共著)がある。

(取材・文 樺山美夏)