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【医師監修】帝王切開の人は皆、痛みに耐えて頑張っている。 自分のお産に誇りを持って欲しい 荻田和秀医師(りんくう総合医療センター)に聞きました。

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ふつう、出産、と言えば、経腟で産む自然分娩を思い浮かべる人が多いでしょう。

しかし、近年の日本では、帝王切開は増加傾向にあります。5人に1人が帝王切開で分娩する今日。妊娠すればだれもが帝王切開となる可能性はあり、想像以上に身近なことであると言えます。

帝王切開の実際について、ドラマ「コウノドリ」の舞台のモデルとなった、りんくう総合医療センター産婦人科の荻田和秀医師にお聞きしました。

帝王切開=ラクなお産、というのは大間違い

――日本では、近年はだいたい20%くらいのお産が帝王切開になっていますが、ハイリスク分娩の多いりんくう総合医療センターでの帝王切開率は、どのくらいですか?

荻田先生:25%くらいです。

 

――25%とは、思ったより多くないです。周産期センター指定を受けているのにも関わらず。(※「周産期母子医療センター」は、出産の前後に高度医療を受けられる施設として国の指定を受け、ハイリスク妊婦をはじめとした高度医療が必要な症例を引き受ける施設。)

荻田先生:他の周産期センターでは、概ね35~45%だと聞きますので、比較的少ないほうですね。なるべく帝王切開の数は少ないようにしたい、という共通認識がスタッフにあるからなんだろう、と思います。それはやっぱり、帝王切開だと産後がしんどいですから。

 

――あらかじめ決まっている予定帝王切開の場合、どのような流れになりますか?

荻田先生:前日に入院して、9時までに食事は済ませてもらい、それから絶飲食になります。シャワー浴びる人は、前の日か朝シャワーを浴びてもらって、点滴をして、手術時間まで待っていただく。

手術は、ほとんど区域麻酔で行っています。腰椎麻酔と硬膜外麻酔なので、意識はあります。縫合をして、状態が良ければ早期母子接触も行うことができます。

術後は安静にしていただくのですが、帝王切開後は血栓症(血液のなかに固まりができる疾患)になるリスクが上がるため、予防のために、足にポンプみたいなのをつけて、翌日の朝くらいまではマッサージを行います。

また、翌日以降、歩けるようになったら自分で血栓予防のために歩いてもらうことになります。

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帝王切開は赤ちゃんのリスクを最小限にする産み方

――産後は痛みますか?

荻田先生:帝王切開は、赤ちゃんのリスクが最小限となる分娩方法です。赤ちゃんが産道を通らないで、いきなり子宮の外にワープするようなものですから。そのぶん、母体に背負ってもらうリスクは多くなります。経腟分娩では、徐々にお産が進んでいきますが、帝王切開では、一気に1時間とか数十分で分娩を終了させるわけですから、それなりにからだに負担がかかります。

麻酔はかけますが、切れてくるとすごく痛みます。痛みの総量を考えてみると、経腟分娩も帝王切開も、そう変わらないのではないでしょうか。だから決して、帝王切開のお産は、お母さんにとってラクでも何でもない。しんどい時期が分娩の前後なのか、お産が終わってからしばらくなのか、という感じで僕らは捉えています。

 

――痛みの総量は同じというのは、分かりやすいですね。

荻田先生:経腟分娩と帝王切開を両方経験された方で、帝王切開のほうが痛かったという人もいるくらいですよ。

 

――いつ頃まで痛いのですか?

荻田先生:人によりますが、4~5日は歩くのもつらいくらい痛いと思いますよ。退院してからも本調子ではないと思います。

 

――退院後の日常生活の注意としては。

荻田先生:帝王切開の場合、合併症は比較的、早期に出てくるので、術後の最初のヤマ場である当日~翌日、次のヤマ場である5~6日目など、その時々に注意して診ていく必要があります。膿んだりしてくることがあるので、産後2週間健診や1カ月健診でも、しっかりと診察が必要です。

 

 

経腟分娩、帝王切開、どちらも同じように、かけがえのない誕生の瞬間

――近年の帝王切開数の増加をどのように見ていらっしゃいますか?

荻田先生:先ほど少ないと言っていたうちでも、実は増加傾向です。日本で帝王切開が増えているのは、明らかに医療側の事情が多いと思います。

 

――あまり赤ちゃんにリスクを背負わせたくない、という…。

荻田先生:そういうエビデンスが多いと帝王切開を選ぶでしょうし、複合的なリスクを抱えている場合、他の科の医師によるサポートが必要であれば、予定を立てて分娩してもらったほうがその後の連携がスムーズである、という事情もあるかもしれません。

それでも、世界的に見れば日本はまだ帝王切開は少ないほうです。アメリカなどはもっと多くて半数に迫るほどですからね。むしろ、何らかのリスクがあって帝王切開がすすめられる状態でも、妊婦さん自身が経腟分娩を希望されることがあります。

 

――それは痛みをこらえて産むことを美徳とするような文化的背景から?

荻田先生:そう考えると納得できますね。

 

――経腟分娩がかなわないと、無力感みたいなものを感じるのでしょうか?

荻田先生:うーん。お産の後はみんな清々しい顔をされていますけどね。帝王切開の後であっても、出産の喜びというのは変わらないと僕は思います。ただ、帝王切開に関する間違った認識を持つ周囲の人から心無いことばをかけたりして、あたかも劣っているのでは、と思い違いをしてしまうことがあるかもしれません。それに追い打ちをかけるように育児がうまくいかなかったりすると、その理由は産み方が帝王切開だったからだ、と思うとか。

 

――それこそ都市伝説ですよね。

荻田先生:また、緊急帝王切開になったときは、お母さんのリスクはより高くなります。分娩の途中で帝王切開へと切り替えるので、十分な準備ができておらず、合併症なども幾分出やすく、後遺症として残る可能性も高くなります。

この場合、多くの人は、頑張ったけど経腟分娩が叶わなかったということですよね。だから頑張ったというのは褒められるべきだと思うんです。結果はどうであれ、赤ちゃんを元気に抱っこしてもらうために僕らは仕事をしているわけで。経腟でも帝王切開でも、同じ分娩ですから。特に急に帝王切開になった場合は恐怖心と闘いながらのお産で大変だったわけで。帝王切開になった結果に関しては、誇りを持ってほしいですね。

>>次回記事:【医師監修】もしもおなかの赤ちゃんに病気が見つかったら? 荻田和秀先生(りんくう総合医療センター)に聞きました。

 

取材・文/秋田恭子 写真/梶 敬子

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荻田 和秀先生

産科医。大阪府泉佐野市にある、りんくう総合医療センター産婦人科部長。「コウノドリ」のモデルでもある。産科救急やハイリスク症例の搬送も毎日のように行われる地域周産期医療センターで、母子のために昼夜診療に当たっている。