妊娠・出産・育児の情報サイト


【医師監修】妊婦が「はしか(麻しん)」に感染したら? 「風しん」との違いを産婦人科医 宗田聡先生に聞きました

f:id:akasuguedi:20180604212217j:plain

f:id:akasuguedi:20180524002234p:plain

沖縄を中心に流行した「はしか(麻しん)」。妊娠中に、はしか(麻しん)に感染するとどんな影響があるのでしょう? 体験記では、妊娠初期に「風しん」の疑いがあったというエピソードがありましたが、風しんとはしか(麻しん)の違いは? 広尾レディース院長 宗田聡先生にお聞きました。

 

免疫を持たない人は100%発症。妊婦は流産、早産のリスクが

―――はしか(麻しん)の感染が騒がれるのはどうしてでしょう? 妊婦さんへの影響は?

はしか(麻しん)の特徴は、感染力が強く、空気感染もするので、皆さんが効果があると思って行っている手洗いやマスクなどでは予防ができません。そして、免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%発症します。

 感染した後の症状は主に高熱と発疹。個人差はありますが、1週間程度の症状が続き、肺炎などの合併症を生じることもあります。成人がはしか(麻しん)にかかると子どもに比べて重症化する事が知られていますが、普通の大人であれば死に至ることはまず無いと言えるでしょう。

ただし、妊娠して免疫力が低下している妊婦さんは話が別です。高熱が続くことで流産、早産のリスクが高まる他、肺炎の発症は2.6倍、死亡率は6.4倍と高くなるため、肺炎で妊婦さん自身の命を落とす危険性も出てくるのです。妊婦さんにとっては大変危険な感染症なのです。

 

 

 

治療薬はなし。2~3回のワクチン接種のみが確実な予防策

―――では、感染しないためには、どうすればいいですか? 

はしか(麻しん)は治療薬がありません。手遅れにならないためには、ワクチンで予防するしかないのです。私は、ワクチン接種には2つの意味があると考えます。1つは、自分自身を感染からまもるため。2つ目は周囲に広げないという公的な意味合いです。

はしか(麻しん)は、欧米などの先進国ではほぼ撲滅された病気ですが、日本では2008年の大流行では1万人以上の患者が報告されました。その後の予防接種対策で激減はしましたが、未だ感染例が報告されています。理由は、日本には、ワクチン接種による免疫が不十分な人がまだ多いためです。アジアやアフリカなど、ワクチン接種が浸透していない国で、はしか(麻しん)に感染した患者が帰国すると、そこからワーッと感染が広まってしまうのです。

今では、2回のワクチン接種が義務付けられていますが、国が定期接種を開始したのは1978年から。当時のワクチン接種率は必ずしも高くありませんでした。ワクチンは抗原(ウイルスそのものから毒性を抜いたもの)を接種することで、体内に免疫を作ります。個人差はあるものの、2回接種すれば、9割以上の人の体に免疫を作ることができるのですが、1回しか接種していない人は抗体が弱いため、簡単に感染してしまうのです。

―――子どもの頃に2回接種していれば問題ないのでしょうか?

ワクチンによる免疫は時間の経過とともに弱体化してしまいます。最後に接種してから10年以上たつと抗体価はかなり低くなっていることがあります。妊娠を考えている人やその家族は、再度接種した方が良いでしょう。追加でワクチン接種することで再び体内の抗体価をあげる(ブースター効果)ことができるからです。特に不特定多数の人と関わる環境にいる方には強く推奨します。

 

妊娠を考えている人は周囲の家族もワクチン接種を

―――「奥さんに抗体があるから僕は接種しなくて平気」というダンナさんの声も聞きますが…

実は、今日、まさに患者さんから同じ質問を受けました(笑)。先ほども言いましたが、ワクチン接種には公的な意味合いもあります。夫婦間では大丈夫かもしれませんが、仮に旦那さんが感染したことに気づかずに、普段通りに出社した場合、移動先や勤務先などで、弱い抗体を持った妊婦さんに感染させてしまう危険性があります。少しでも患者を減らすためには、社会全体で予防に取り組む意識を持つことが大切です。

 

胎児への影響が出るのは風しん。妊娠初期は奇形のリスクが

―――風しんとはしか(麻しん)の違いは?

風しんは三日ばしかと呼ばれるほど、はしか(麻しん)に比べると、感染したときの症状は軽く、感染したことに気づかない人(不顕性感染)もいます。ただし、妊婦さんが妊娠初期に感染すると胎児に奇形が生じることがあるのです。特に、赤ちゃんの器官が形成される妊娠12週までの初期感染では「先天性風疹症候群」と言う、難聴、白内障、先天性心疾患の三大奇形の発生率が高まるとされています。はしか(麻しん)では早産、流産のリスクはありますが、今のところ、胎児への直接的な影響は知られていません。

 

高熱や発疹があるときの産婦人科受診は絶対NG電話連絡の上で内科を受診

―――妊娠中に感染した疑いがあるときはどうすればいいでしょう?

はしか(麻しん)や風しんに関わらず、妊娠中に高熱や発疹の症状があるときは、産婦人科医ではなく必ず内科に連絡をとってから受診して下さい。産婦人科に直接行ってしますと他の妊婦さんに感染源を広げる危険性がでてしまいます。疑わしい症状があるときは、電話で症状を伝えた後、医師の指示に従うようにしてください。

 

ゼクシィBaby WEB MAGAZINEの記事

【医師監修】妊娠中に風邪をひいた。市販薬を飲んでOK?【医師監修】妊娠中に風邪をひいた。市販薬を飲んでOK?妊婦さんであっても、風邪をひかない、という保証はどこにもありませんよね…。妊娠中の風邪では、風邪薬は飲んでもいいのか、つらい症状でも薬なしで我慢しなければならないのか、飲める薬はあるのかなどについて、詳しく解説します。…
【医師監修】妊婦はインフルエンザの予防接種はして平気?【医師監修】妊婦はインフルエンザの予防接種はして平気?「妊婦さんもインフルエンザの予防接種をしましょう」と推奨される文章をあちこちで見て、妊娠中にインフルエンザワクチンを接種しても本当にいいの?と不安に思う人も多いでしょう。そもそも妊婦がインフルエンザにかかったらどうなるの…
【医師監修】妊娠初期、熱っぽくなるのは本当?これはつわり?【医師監修】妊娠初期、熱っぽくなるのは本当?これはつわり?生理が予定よりも遅れていて、なぜか熱っぽさやほてりを感じる…。これってもしかして妊娠の兆候?と、はやる気持ちになる人も少なくないでしょう。妊娠初期に熱っぽくなるのは本当なのか、その原因と対策、おなかの赤ちゃんへの影響につ…

 

宗田 聡先生

医学博士・産業医、日本産科婦人科学会認定医、臨床遺伝学認定医。「広尾レディース」院長。20数年の産婦人科臨床経験を活かし、最先端で専門的な医療を提供すると同時に、女性の心とカラダに関する啓蒙活動も積極的に実施。『31歳からの子宮の教科書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。