白目みさえさんは、妊娠8カ月の時に測定した血圧が異常に高いことから「妊娠高血圧症候群」と診断され、有無をいわさず即入院となったそう。それまでは適正体重で血圧も正常値だったのに…。
母親学級や健診の際に「妊娠高血圧症候群」という名前を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
白目みさえさんのように体重が適正範囲内でもなる可能性があるのか、予防法はあるのか、なってしまった場合どんな治療をするのかなどを、多くの妊産婦さんの健康を見守ってきた田園調布オリーブレディースクリニックの杉山先生に聞いてみました。
Q:「妊娠高血圧症候群」とはどんなトラブルなのでしょうか。
A:妊娠時に高血圧(収縮期血圧が140mmHg以上で拡張期血圧が90mmHg以上)を発症するトラブルです。妊娠中にかかる病気の中で一番怖い病気とされ、けいれん発作や脳出血など重篤なトラブルを引き起こす可能性があるので注意が必要です。
「妊娠高血圧症候群」は大きく3タイプに分けられます。
妊娠前から高血圧だった、妊娠20週前に高血圧になった場合は「高血圧合併妊娠」、妊娠20週以降に発症して症状が高血圧だけの場合は「妊娠高血圧症」、同じく20週以降に発症し、高血圧+尿たんぱくが見られる場合は「妊娠高血圧腎症」に分類されます。
2018年からは尿たんぱくの症状がなくても肝機能障害、腎機能障害、神経障害、血液がかたまりにくくなる、赤ちゃんの発育が遅いなどのトラブルが見られる場合は、妊娠高血圧腎症と診断されるようになりました。
Q:妊娠高血圧症候群になった場合、自覚症状はありますか。
A:白目みさえさんのように目の前がキラキラして見えたり、目をつぶると火花が散っているように感じる人もいますが、それで「もしかしたら妊娠高血圧症候群かも…」と気づくことはまれです。
ほとんどは自覚症状がなく、健診時の血圧測定で異常に気づくことが多いようです。自宅で毎日血圧を測っている妊婦さんは、そこで異常に気付き、受診して診断されるケースもあります。
かつては、足のむくみを診断材料の1つとされていましたが、今はむくみの症状だけでは妊娠高血圧症候群とは診断されません。
Q:妊娠高血圧症候群になる原因はありますか。また、なりやすい人はどんな人ですか。
A:原因は正直なところわかっていません。ただ、なりやすい人はいます。もともと糖尿病や高血圧、腎臓のトラブルを抱えている、妊娠前から肥満、高血圧の家族がいる、40歳以上の高齢妊娠、多胎妊娠、初産婦、以前に妊娠高血圧症候群と診断されたことがある人は要注意です。
Q:予防法はありますか。
A:原因がわからないので、「これをやっていれば大丈夫!」という確実な予防法はありません。体重が過剰に増えるとなりやすい傾向にあるので、体重コントロールをしっかり行うように心がけてください。
Q:妊娠高血圧症候群と診断された場合、どんな治療をしますか。
A:通常、診断されたら入院をして安静を心がけます。
重症の高血圧の場合は、けいれん予防などのために薬を使って血圧を下げる場合があります。ただし急激に血圧を下げると赤ちゃんの状態が悪くなることもあるため、薬を使う際は注意が必要になります。
妊娠高血圧症候群の確かな治療法は「妊娠を終わらせること」なので、これ以上妊娠を続けると母子ともに良くない状態になると判断した場合は、正期産でなくても帝王切開などで赤ちゃんを出産させることがあります。
その場合、早産児、低出生体重児として生まれた赤ちゃんは、NICUなどにうつされ、管理された環境のもと、退院の許可が出るまで発育の経過をみることになります。
Q:白目みさえさんは出産した後も血圧が下がらなかったようですが、出産後も高血圧が続いてしまう人は多いのでしょうか。
A: 妊娠高血圧症候群の場合、妊娠を終わらせると急速に血圧の数値が正常値に戻ることが多いです。
ただ、高血圧腎症と診断された人の中には、出産後も高血圧や尿たんぱくが続いてしまう人がいます。その場合は入院期間を1週間ほど延長し、降圧剤を使って血圧の数値をチェックすることになります。
まれに「高血圧緊急症」といって脳出血などの危険性が高まるトラブルを発症することがあります。その場合は、点滴などで血圧をさげるため、入院生活が1週間以上になることがあります。
妊娠高血圧症候群になった人は、出産後に生活習慣病の糖尿病や高血圧になりやすいといわれています。出産直後は子育てで大変だとは思いますが、生活が落ち着いたら規則正しい生活とバランスの良い食事を心がけましょう。
また、一度妊娠高血圧症候群と診断された妊婦さんは、次回以降に妊娠した際には、主治医に診断されたことがある旨を伝えるようにし、リスクを回避するようにしてくださいね。
杉山太朗先生
医学博士。田園調布オリーブレディースクリニック院長。
2001年信州大学卒業後、東海大学医学部付属病院、東海大学医学部専門診療学系産婦人科講師を経て、2017年に田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。やさしい先生のお人柄とわかりやすくソフトな説明に惹かれ、遠方から通う患者さんも多い。4人のお子さまのパパ。
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