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【医師監修】授乳すると気分が落ち込む…。不快性射乳とは?産後うつとの違いは何?

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PUKUTYさんは、赤ちゃんとの生活が慣れてきた頃から「授乳するとモヤモヤしてものすごく落ち込む」ということが続いたそう。

 

 

ご自身で調べたところ「不快性射乳反応(Dysphoric Milk Ejection Reflex、略してD-MER)」という現象ということがわかりました。

 

 

この「不快性射乳(D-MER)」という言葉を初めて聞く人も多いのではないでしょうか。

そこで、多くの妊婦さんや新米ママに、わかりやすいアドバイスを行っている日本赤十字社医療センターの第二産婦人科部長の笠井靖代先生に「不快性射乳反応」について解説していただきます。

 

 

Q:不快性射乳反応とはどういったトラブルでしょうか。また原因がありましたらお教えください。

A:不快性射乳(D-MER)は、PUKUTYさんが体験されているように、赤ちゃんにおっぱいをあげている際、あるいは射乳(乳汁が外に分泌される)の際、気分が落ち込んだり、不安になったり、イライラしたりする現象です。

ただ、特徴的なのはこういった気持ちは、数分から5分ほどでおさまり、嘘のようにいつも通りの気持ちに戻ります。

2010年頃から報告されるようになったところで、まだ詳しいメカニズムはわかっていません。

普段、私たちにやる気や幸せな気持ちを起こさせるドーパミンという物質が脳から出ていますが、射乳の際に一時的にドーパミンが減ることでこういった気分になるのではないかともいわれています。そういった説もありますが、まだ研究の途上です。

 

Q:発症しやすい時期(産後すぐ、もしくは産後数カ月経ってからなど)がありましたらお教えください。

A:最初の報告では、産後2週間ぐらいから現れ始めたようです。また、産後6~8週間の母子訪問で9%くらいの方に不快性射乳が認められたとの報告があります。また、卒乳するまで症状が起こることもあるようです。(これらはアメリカでの報告であり、日本人でのデータはありません)

 

Q:PUKUTYさんの場合は「授乳している間、すごく落ち込んだ気分になる」ということでしたが、気分が落ち込む症状のほかにどんな症状がみられることが多いでしょうか。

A:気分が落ち込む、悲しい、絶望感のほかに、不安やイライラする、何事にも過敏に反応する、興奮するなどの症状もあるようです。

 

Q:不快性射乳反応になりやすい人というのはいますか。

A:原因がわかっていないので誰にでも起こりうる可能性があります。

乳汁の分泌(すなわち射乳)にともなう一種の生理現象なので、「これをやっているとなりづらい」という対策法もありません。

ただ、最初に「授乳中のこのネガティブな感情っていったいなんだろう?」と気づいたのは、アメリカで3人目を育児中のママでした。

さらに、ずっと続く感情ではなく、5分ぐらいで消えてしまうことからそこから推測すると、無我夢中で子育てすることの多い1人目のママだとそういった感情があっても目の前のことに一生懸命で気づかないこともあるかもしれません。

なによりも大切なのは、こういった気持ちになっても「お母さんとして向いていないのかも…」と、自分を責める必要はまったくないということです。

 

Q:授乳している最中に悲しい気持ちになったり、違和感を感じた場合は、どこへ相談をしたらいいでしょうか。

A:出産したクリニックの母乳外来や、住んでいる地域の助産師会に相談してみるといいでしょう。

ただ、最初に不快性射乳の報告が最初にあったのが約10年前の2010年です。まだわかっていないことも多く、助産師さんを含め医療関係者の中でも「不快性射乳」についてよく理解されていない場合も少なくありません。

 

 

Q:不快性射乳と産後うつの症状は似ているように思います。どこで見分けたらいいでしょうか。

A:不快性射乳反応の場合は、授乳(もしくはおっぱいが分泌されている間)している間だけ突然、ネガティブな感情になり、数分でおさまり、それ以外の時間はなんともなく赤ちゃんとの時間を楽しく過ごすことができます。

一方、産後うつの場合は、ネガティブな感情がずっと続くことになります。

もし、授乳がすんでもずっとモヤモヤした気分が晴れない、授乳時間以外でも不安で、訳もなく涙がでてきてしまう、食欲がない、楽しい気持ちになれないなどの症状がみられるようなら産後うつの可能性があります。その場合は産婦人科を受診したり、地域の保健センターに相談するようにしてください。

 

おっぱいをあげている時に暗い気持ちになるのは、決してお母さんとして自覚が足りないからでは決してありません。「体の反応で起こることもあるんだ」と、自分が理解することで、数分間起こる感情をなんとかやり過ごすことができるかもしれません。

また、身近な人に理解してもらうこともママの支えになるはずです。いい意味でのんびりかまえながら育児をしてくださいね。

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笠井靖代先生

医学博士。日本産科婦人科学会産婦人科専門医・指導医、日本周産期・新生児医学会周産期(母体・胎児)専門医・指導医

日本赤十字社医療センター 第二産婦人科部長

 

1988年、東京医科歯科大学医学部卒業。三井記念病院産婦人科、東大病院で研修医を経て、1996年東京大学大学院医学系研究科(生殖発達加齢医学を専攻)修了。1997年より2000年までアメリカのタフツ大学に留学。2000年より日本赤十字社医療センター産婦人科に勤務し、現在にいたる。医師として先輩ママとして、多くの妊婦さんや新米ママの立場にたったあたたかいアドバイスを行ってくれる。

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