緊急帝王切開で赤ちゃんを出産したりんりんままさん。でも、生まれてきた我が子が泣き声をあげないことに気づき、大きな不安に襲われました。
その後しばらくしてからようやくか細い泣き声が聞こえ、ほんの少しだけホッとしたそうです。
でも翌朝、県で一番大きな病院に赤ちゃんだけ転院することになり、再び心配な状態に…。
この時、赤ちゃんは「胎便吸引症候群」を引き起こしており、その処置と治療のために赤ちゃんだけ大きな病院へ転院することになるのですが、胎便吸引症候群っていったいどんなトラブルなのでしょうか。
そこで、日頃から多くの新生児を診察されている東京都立小児総合医療センター新生児科で医長をつとめる岡﨑薫先生に教えてもらいました。
Q:胎便吸引症候群とはどんなトラブルでしょうか。
A:おなかの中にいる赤ちゃんが羊水の中にうんちをし、うんちのまじった羊水を赤ちゃん自身が肺に吸い込んでしまうことで起こるトラブルです。
なんらかの理由で赤ちゃんが苦しくなると、羊水の中に緑色のうんちをすることがあるのです。そうすると羊水の中にうんちがまじり、汚れた状態になります。
苦しい赤ちゃんは、いっそうあえぐようなしぐさをするようになり、そのせいでうんちのまじった羊水を飲み込んでしまいます。
その飲みこんだ羊水が肺に流れてしまうことがあります。そうなると肺の中でうんちに含まれる化学物質が炎症を起こし、肺にダメージを与えてしまうことがあります。そのせいで呼吸するのが大変な状況になっていきます。
このように、苦しくなった赤ちゃんがうんち(胎便)を羊水中に出してしまい、そのうんちで汚れた羊水を肺に飲み込み、生まれた後にうまく呼吸ができなくなった状態を「胎便吸引症候群」といいます。
Q:「赤ちゃんは苦しくなるとおなかの中にうんちをする」とのことですが、どんな時に苦しくなることが多いのでしょうか。
A:胎盤機能が下がったり、臍が圧迫されたりしているときに、苦しく感じます。
赤ちゃんが苦しいと感じてうんちをするのは、臍が圧迫されていたり、胎盤に異常があるとき、などです。
ちなみに、週数が早いと赤ちゃんは、羊水にうんちをあまりしないのと、あえぐことができないので、胎便吸引症候群になりません。
Q:おなかの中でうんちをする赤ちゃんは多いのでしょうか。
A:おなかの中でうんちをする赤ちゃんは10%前後で、さらにその中で胎便吸引症候群を引き起こす確率は約5%です。
羊水が汚れた状態(羊水混濁)になるのは、10%前後といわれています。さらに羊水混濁がみられたケースのうち、胎便吸引症候群を引き起こすのは約5%といわれています。
また、予定日を過ぎると半分近くの赤ちゃんがおなかの中でうんちをします。これは、ただ単に腸が生理的に成熟したためで、腸がよく動くことでうんちをしてしまうようです。つまり、羊水にうんちをするのは苦しいときだけではなく、苦しくなくてもうんちをします。
Q:胎便吸引症候群になると、赤ちゃんには具体的にどんな症状がみられますか。
A:呼吸が苦しくなり、肺が破けたり、最悪の場合、命にかかわることも。
前にも書いたように、いつも通りの呼吸ができないため、苦しさを感じます。また、肺に取り込んだ空気を上手に吐き出せないことで肺が異常に膨らみ、破けてしまう、うんちに含まれる化学物質によって肺炎を起こすこともあります。
また、酸素を上手に取り込めず、低酸素状態が続くと、赤ちゃんの皮膚やつめの色、が青紫に変色してしまうこともあり、最悪の場合、命にかかわることもあります。
吸い込んだうんちは、生後赤ちゃんの体内に自然と吸収されるので問題ありません。
Q:胎便吸引症候群がおこっているかは、どうやって判断するのでしょうか。
A:羊水の色、胸部のレントゲン写真などから診断。
大人であれば、苦しい時は言葉や表情で訴えることができますが、おなかの中の赤ちゃんには、もちろんそんなことはできません。
そのため、生まれる前は、おなかの中にいるときに苦しくなっているかどうかは、ママのおなかにセンサーをつけて赤ちゃんの心拍数が下がっていないか、羊水の色がいつもと違った色になっていないか、うんちがまじっていないか、などで判断します。
生まれた後は、羊水に赤ちゃんのうんちが混じっていないかを確認。もし、赤ちゃんのうんちが混じっていたら、そのうちの約5%が胎便吸引症候群になっている可能性があります。最終的には、人工呼吸器をつけたときに肺から赤ちゃんのうんちが吸引されれば「胎便吸引症候群」と診断できます。しかし、人工呼吸器をつけていないときは、レントゲン写真や呼吸状態から「胎便吸引症候群だろう」と予測することになります。
Q: 胎便吸引症候群の場合、一般的にはどんな処置が施されるのでしょうか。
A:酸素投与をしますが、それでも改善しないときは、鎮静剤や人工呼吸器、一酸化窒素吸入療法・人工心肺をつけて呼吸を安定させます。
赤ちゃんが苦しそうでなければ、よくなってくるか、悪くなってくるか経過をみます。もし、悪くなってくるようであれば、まず最初に酸素投与をします。それでもよくならないようであれば、鎮静剤や人工呼吸器を使って呼吸を安定させます。多くの場合は、これでよくなりますが、それでもよくならないときは、一酸化窒素吸入療法や人工心肺を使います。これらの治療は高度医療ですので、大きな新生児集中治療室(NICU)のある病院でなければできません。一酸化窒素は、赤ちゃんが肺に吸い込むことで、肺の血管を膨らませ、肺からたくさんの酸素を取り込むことができるようにします。
Q:りんりんままさんの赤ちゃんは、分娩後大きな病院へ搬送されていますが…。
A:出産した施設に人工呼吸器が無い場合は、大きな病院に搬送されることがあります。
すべての病院に赤ちゃん用の人工呼吸器が設置されているわけではありません。
りんりんままさんが出産した病院にそういった設備がない場合は、治療のために搬送されることがあります。
現在、各都道府県には大きなトラブルを抱えるママや赤ちゃん、妊婦さんをケアできる「総合周産期医療センター」に指定された病院が必ず1施設以上あり、NICUや赤ちゃん用の人工呼吸器が設置されています。
りんりんままさんのようにいきなり赤ちゃんだけ別の病院に搬送されるとショックを受けますよね。でも高度な治療を受けられる病院へ搬送することで、「赤ちゃんが早く快復できる可能性が高まるので、できるだけ前向きにとらえてくださいね。
Q:胎便吸引症候群にならないための予防法がありましたらお教えください。
A:残念ながら予防法はありませんが、発症しても経過は良好なことが多いです。
胎便吸引症候群の予防法は残念ながらありません。誰にでも起こる可能性はあります。ただ、発症したとしても多くの場合はその後の経過はきわめて良好なので、過度に心配しないでください。
もし、赤ちゃんが診断された場合、1人でいろいろと考えてしまうとママの気持ちがふさいでしまうことがあると思います。そんな時は、病院の先生やスタッフにわからないことを聞いたり、不安な気持ちを聞いてもらってくださいね。
岡﨑 薫先生
東京都立小児総合医療センター 新生児科 医長
京都市生まれ、福井市育ち。1996年、香川医科大学医学部を卒業後、同大学小児科に入局。新生児医療に魅了され、卒後4年目以降は新生児科医とし、愛媛、東京、香川の病院を経て、2015年より、東京都立小児総合医療センターで勤務。
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