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【医師監修】「卵子の在庫もあって異常なし」なのに、妊娠しないのは多嚢胞性卵巣症候群だから? 不妊との関係を解説!

30代後半になってから夫と妊活に励むTaroさん。いろいろな方法にトライし、妊娠をめざすもののなかなか授からず…。

 

そんな時、卵子の在庫がどのくらい残っているかを調べるAMH検査を受けたところ、卵子の在庫は同年代の平均的な数より多く残っていることがわかり、ホッとしたそう。

でも、今度は「なぜ卵子の在庫もあって、あきらかな異常もないのに妊娠しないのかな」という思いが!そんな時、主治医から多嚢胞性卵巣症候群の疑いがあることを言われ、ビックリしたそうです。

 

 

なにやら漢字がたくさん並ぶ「多嚢胞性卵巣症候群」とはどんなものでしょうか。産婦人科医として多くの患者さんを妊娠、出産へと導いている慶應義塾大学医学部産婦人科学教室の内田明花先生に教えていただきました。

 

Q:多嚢胞性卵巣症候群とはどんな病気ですか。

A:うまく排卵できなくなる病気です。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOSと略されることもあります)とは、要約するとうまく排卵できなくなる病気で、20~40代の女性の5〜10%にみられ、生理不順や不妊症の原因として多くみられるトラブルです。

通常は、約28〜30日の生理周期にあわせて、左右の卵巣内にあるいくつかの卵の小さな袋(卵胞)のうち、選ばれた1個の卵胞が育ち始めます。卵胞は成熟すると18~20mmほどの大きさに。そのくらいの大きさまで育つと、脳から「排卵せよ」という命令が出され、卵子が飛び出し、卵管へと送りこまれます。これが排卵です。通常は1回の排卵につき、1つの卵子が放出されます。

一方、多嚢胞性卵巣症候群の方では、左右の卵巣に多くの卵胞がみえるものの、なかなか育たずにどれも卵胞が充分に成熟しないため、排卵できません。

また、なんとか排卵が起こる方であっても、生理周期が40日程度と通常と比べて遅くなったり、月ごとにバラバラになる場合や、「無排卵月経」といって一見、生理のような出血はあるものの、実際は排卵していない場合もあったりするので、注意が必要です。

診断基準があり、生理不順の女性で、超音波検査で左右いずれかの卵巣に10mm以下の卵胞が10個以上みられることに加えて、血液検査で特徴的なホルモンバランスがみられる方が多嚢胞性卵巣症候群と診断されます。

 

Q:多嚢胞性卵巣症候群になる原因や症状、なりやすい人の傾向をお教えください。

A:はっきりした原因は不明です。肥満傾向にある場合は注意が必要です。

今のところ多嚢胞性卵巣症候群の原因は完全にはあきらかになっていません。

「排卵できない」以外の主な症状としては、一部の方では男性ホルモンが過剰に分泌されるため、毛深くなったり、ニキビができやすくなったりすることがあります。

また、多嚢胞性卵巣症候群の起こる要因の一つとして、血糖値を下げる働きをするインスリンというホルモンが効きにくい体質(インスリン抵抗性といいます)があると言われています。そのため、多嚢胞性卵巣症候群と診断された方は、将来の糖尿病になるリスクが若干高いと言えます。特にBMIが25を超える肥満がある方は要注意です。今は若い女性の方でも、普段の生活習慣を見直すきっかけとお考えください。

 

 

Q:多嚢胞性卵巣症候群だと妊娠しづらくなるのでしょうか。

A:排卵障害があるため妊娠しづらくなります。

上でも述べたように、妊娠するために必要な卵子が排卵されない、排卵が不規則な状態になるため、妊娠しづらくなります。

 

もし診断された場合は、Taroさんのように妊娠希望の方と、そうでない方によって治療法が異なります。

 

◆妊娠希望の場合

経口薬または注射の排卵誘発剤を使って排卵を起こさせます。

個人の体質により、お薬の効きやすい人、効きにくい人がいますので、まずは経口薬から始め、排卵がみられない場合は別のお薬に変更したり、注射薬に切り替えたりする必要があります。また、自然に排卵する時のように1個だけの卵胞を排卵させるのが難しいケースもあり、双子を妊娠する可能性が高くなったり、卵巣が腫れてお腹が痛くなったりする副作用が出ることもあるので、担当の医師からよく説明を受けてください。

 

◆今すぐ妊娠希望ではない場合

通常は排卵をした後、受精卵が着床しやすくなるよう子宮内膜が厚くなります。その後、リセットするために一度内膜が剥がれ落ち、その後に生理がくるのが、排卵のサイクルになります。

多嚢胞性卵巣症候群の場合、排卵が起きないため子宮内膜がきちんと剥がれ落ちないことがあります。それが元で子宮内膜増殖症や子宮体がんなどを引き起こす可能性があります。

そういった時はホルモン剤やピルを継続して服用し、体内のホルモンバランスを整えるとともに、定期的に出血を起こさせて子宮内膜をキレイにする治療を行います。

 

 

Q:体験記の中に「排卵検査薬が陽性にならなかったのは、多嚢胞性卵巣症候群だったからかも」と書かれていますが、なぜ陽性にならないのでしょうか。

A:排卵していないので陽性になりません。一方で、常にうすめの線が出るケースもあるので注意しましょう。

卵胞が十分に成熟してくると、脳から「排卵せよ」という命令とともに、LHというホルモンが大量に分泌されます。市販の検査薬は、このLHが大量に分泌されたことを感知すると陽性になります。

多嚢胞性卵巣症候群の場合は、卵胞が発育しないためにLHがしっかり分泌されず、いつ検査しても陽性にならないことがあります。

実は多嚢胞性卵巣症候群の女性では、もともとこのLHというホルモンが少し多く出ているため、むしろ排卵検査薬を使用すると常に薄めの線が出続けることもあります。こういった場合、排卵しているか検査薬だけではわかりにくいので、時間の余裕がある方は1~2カ月程度、基礎体温を測定してみましょう。低温期、高温期の二相に分かれているようならば、排卵していると考えられます。もし高温期が分かりにくく常にガタガタの場合は、排卵していない可能性があるので、一度産婦人科に相談してみてください。

 

Q:多嚢胞性卵巣症候群の検査方法をお教えください。

A:超音波検査と血液検査でわかります。

産婦人科の内診台で行う腟からの超音波検査で卵巣内の状態を確認します。あわせて血液検査でホルモン値を測定し、診断します。

検査は産婦人科のある病院やクリニックならどこでも受けることができます。妊娠希望で妊活のために医療機関に通うことを検討している場合は、不妊治療専門の医療機関を受診すると、その後の不妊治療やお薬の相談もよりスムーズにいく可能性があります。

 

Q:多嚢胞性卵巣症候群の予防法がありましたら教えてください。

A:ふくよかな方やBMI25以上の人は減量すると改善できる場合があります。

全員ではありませんが、ふくよかな方やBMI25以上の方は、適正体重の方に比べて排卵障害になりやすいので、減量することで排卵が回復したり、改善できる場合があります。実際に減量したことで、排卵しやすくなった、自然に生理がくるようになった、あるいは排卵誘発薬が効きやすくなったという事例もあります。

将来、妊娠した際も肥満の場合、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病などのトラブルになりやすく、お産もリスクが高くなるので、妊娠前から減量しておくといいでしょう。

多嚢胞性卵巣症候群と診断をされた方は、根本的な原因を治す方法がはっきりしていないため、妊娠希望になるまではホルモン剤を定期的に内服したり、妊活のために排卵誘発剤を使用したり、出産後にまたホルモン剤が必要になったりと、ライフスタイルに合わせて産婦人科と長いお付き合いになる人もいらっしゃいます。きちんとホルモンバランスを整えることができれば、決して妊娠ができないわけではありませんので、どうぞお気軽に産婦人科へご相談にいらしてくださいね。

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内田明花先生

産婦人科医。慶應義塾大学医学部 産婦人科学教室(専門:生殖医療、産科)

2003年慶應義塾大学医学部卒業後、同年慶應義塾大学医学部 産婦人科入局。2014年慶應義塾大学博士(医学)取得。東京歯科大学市川総合病院 助教を経て、2020年より慶應義塾大学医学部産婦人科 専任講師。

日本産科婦人科学会 産婦人科専門医、日本生殖医学会 生殖医療専門医、日本女性医学学会 女性ヘルスケア専門医、日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医(産婦人科)、臨床遺伝専門医


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