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【医師監修】妊娠中は血栓症になりやすいの?自覚症状や予防法などを産婦人科医が解説!


カウンセラーの白目みさえさんは、長女が7カ月の時、すでに次女を妊娠中でしたが、職場へ復帰したそう。その少し前に体内で血の塊ができやすい血栓症になりやすい体質ということがわかりました。

 

みさえさんには、血栓症を防ぐために薬が処方されましたが、予防するために長時間座りっぱなしの姿勢はできるだけ避けるように医師から言われたそう。ただ、カウンセラーという仕事柄、どうしても座りっぱなしになってしまうことが多いため「どうすればいい?!」と、みさえさんは戸惑ってしまったそうです。

 

 

そこで、血栓症とはどんな病気か、そもそも妊娠との関係性や赤ちゃんへの影響などを、多くの妊婦さんや産後のママの診察を手がける国立成育医療センターの周産期・母性診療センター、母性内科医長をつとめる金子佳代子先生に教えていただきました。 

 

Q:血栓症とはどんな病気でしょうか。

A:体の中に血の塊ができてしまう病気です。

血栓症とは、血管の中に「血栓」とよばれる血の塊が急にできる病気のことです。血の塊ができることで肺や心臓、脳などの血管が詰まったり、血液の流れをとめてしまうためにさまざまなトラブルが引き起こされます。動脈にできる血栓症と静脈にできる血栓症がありますが、静脈の方が流れがゆったりしているので、一般的に血栓ができやすいといわれています。

 

Q:妊娠中は、普段よりも血栓症になりやすいのでしょうか。

A:妊娠中は、非妊娠時よりも血液が固まりやすくなります。

通常、血液は、血管内で固まる→とけるという作業を繰り返しています。血液を固める因子(凝固因子)は、主に12種類ほどあり、いくつものたんぱく質が連鎖して血液を固まらせています。妊娠すると何らかの理由で、それら凝固因子が増加。一方で、血液をとかす因子は減ってしまうので、普段よりも血液が固まりやすくなり、血栓ができやすい状態になります。

また、物理的な要因もあります。妊娠中、子宮は大きくなるため、付近の血管が圧迫されて血液の流れが鈍くなります。それゆえ血が固まりやすくなります。

こういった理由から妊娠中は、非妊娠時に比べると血液が固まりやすくなります。

 

 

 

Q:妊娠中に血栓ができると、妊婦さん自身やおなかの赤ちゃんにどのような影響が出るかをお教えください。

A:妊婦さん自身が呼吸不全になる可能性があり、赤ちゃんにも悪影響が出ることも。

妊娠中に起きやすいのが、下肢の静脈にできる血栓です。ただ、下肢の静脈は、肺につながっているため、下肢にできた血栓が肺に入ると肺梗塞を起こし、呼吸不全に陥ってしまいます。妊婦さん自身が呼吸できないと、おなかの赤ちゃんにも酸素や栄養が行かなくなり、命にかかわるケースも出てきます。

ちなみに、この血がかたまりやすい状態は、出産すればすぐに元通りになるわけではありません。産後12週(3カ月)までは同じような状態が続くといわれているので、注意をすることが大切です。

 

Q:血栓ができやすい人というのはどういった方でしょうか。

A:膠原病の方や、遺伝的に血が固まりやすい素因のある方です。

免疫の病気である抗リン脂質抗体症候群の方は、もともと血栓を作りやすい抗体を持っているため、妊娠していない時でも血栓症になりやすいといわれています。さらに、妊娠することで、よりいっそうできやすくなるため、注意が必要です。

また、遺伝的にもともと血液をかためるたんぱくが多い、血液を固めるたんぱくと、とかすたんぱくのバランスに異常がある方なども、血栓ができやすいです。なかでも、プロテインS欠乏症という病気は、比較的に日本人に多いといわれています。

ただ、もともとご自身がいずれかにあてはまるとわかっていて妊娠される方もいますが、妊娠してなんらかの症状が出てから自分が血栓になりやすいタイプと判明するケースもあります。

 

Q:血栓ができ始めている兆候というのは自分でわかるものでしょうか。

A:足のふくらはぎや、ふとももが急に痛みだしたり、腫れたりした場合はすぐにかかりつけ医を受診して。

血栓症の特徴として「急に症状があらわれる」というものがあります。また、妊娠中は、左脚のふくらはぎや太ももに痛みや腫れがあらわれやすくなります。

「昨日までなんでもなかったのに急にふくらはぎが痛くなった」、「なんだか足が腫れている」など、違和感にきづいたら、すぐにかかりつけの産婦人科医に連絡をし、受診をするようにしてください。

 

 

Q:血栓ができないように予防法をお教えください。

A:薬を使ってコントロールする、妊娠中や産後は、ずっと寝たきりにならないようにすることが大切です。

すでに抗リン脂質抗体症候群と診断されていたり、遺伝的に血栓ができやすいとわかっている場合は、薬をつかって血がかたまりにくいようにコントロールします。

また、妊娠中や産後、ずっと寝たきりになってしまうと、どうしても血の流れが悪くなり、血栓ができやすくなってしまいます。安静を指示されているのに勝手に動くのはNGですが、「動いてもよい」というお医者さんの指示がでたら、できるだけ体を動かすことも血栓を防ぐうえでは大切なポイントになります。

高血圧や高脂質症、肥満などの傾向がある方も血がかたまりやすい傾向にあるので、それらを悪化させないよう普段の生活を見直してみましょう。

 

妊娠中や産後は、体の変化が激しいため、今まではなかったような症状があらわれて戸惑うことも多いと思います。ご自身で「おかしいな」「昨日まで無かったのに、今日は痛い」など、少しでも変化があったら、自分で勝手に解決せずに主治医に相談するようにしてみてくださいね。

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金子佳代子先生

国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター母性内科 医長

 

2003年信州大学医学部卒業。2006年東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科に入局し、同大学附属病院、草加市立病院などで臨床と研究に従事。2014年より国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター母性内科フェロー、2016年より医員をへて2021年より現職。母性内科医として慢性疾患をもつ女性のプレコンセプションケアや妊娠管理、産後のフォローにかかわっている。

 

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