3人のお子さんの妊娠、出産経験のあるあいさん。妊娠中に感じたマイナートラブルもさまざまで、見た目にはあらわれないものから、パッと見てわかるものまでいろいろと経験されたそうです。また、症状が軽いものもあればひどいものまであったそう。
いろいろなマイナートラブルの中でも、あいさんがとりわけ辛くて大変だったと感じたものが「陰部静脈瘤」だったそうです。
いったい「陰部静脈瘤」とはどんな病気でしょうか。主な症状や治療や予防法などを、妊婦さんそれぞれのトラブルと一緒に向き合い、どうするのがベストかを一緒に考えてくれる亀田ウィメンズ・レディースクリニックの橋本尚先生に教えていただきました。
Q:静脈瘤とはどんな病気でしょうか。
A:下肢の血管が腫れることで異様な模様やこぶがあらわれるトラブルです。
主に下肢の血管が膨れることで、肌表面に血管が浮き出たような異様な模様のようなものが出たり、静脈内にこぶのようなものができたりするトラブルです。
Q:妊娠中、静脈瘤ができやすい原因はありますか。
A:血液量が多くなる、大きくなった子宮で骨盤内の血管が圧迫されるなどが原因です。
妊娠中は、血液量が約1.4倍(4リットル→5.5リットル)に増えます。また、大きくなった子宮でお腹の中の圧力が高まり、骨盤内の血管も圧迫されるため、静脈内にある弁(血液の逆流を防ぐためにある器官)の機能が低下します。さらに、妊娠中のホルモン変化も血管壁を弱くします。
これらの理由から妊娠中、特に妊娠中期以降に下半身に血液がたまりやすくなり、静脈瘤ができやすくなります。
Q:静脈瘤ができやすい体質や傾向の人には、どんな特徴がありますか。
A:高齢や肥満傾向の人、家族で静脈瘤のトラブルになったことがある方などは注意が必要です。
血管が傷つきやすい人や、下半身に血液が溜まりやすい人は、静脈瘤になりやすいといわれています。
具体的には高齢、肥満傾向の人、便秘の人、立ち仕事が多い人、分娩回数の多い人、静脈瘤の家族歴がある人などができやすくなります。
Q:体験者のあいさんは陰部にできたとのことですが、妊娠中、静脈瘤は主にどんなところにできやすいのでしょうか。
A:主に下半身にできやすくなります。
子宮が圧迫するのは下半身からの血液が戻ってくる血管になるので、下半身にできやすくなります。
下肢の皮膚に近い血管で静脈瘤が起こると、血管が目立つようになります。
一番できやすいのは、太ももの内側から後ろ側にかけてです。あいさんのように外陰部にトラブルがあらわれる場合は、大陰唇がボコボコと腫れる症状が多いです。
下肢静脈瘤は軽度も含めると妊娠中の10~20%、その中の4人に1人が外陰部静脈瘤を合併するといわれています。
Q:陰部に静脈瘤ができた場合、一般的にはどのような症状が出ますか。
A:大陰唇が腫れるので触れるとボコボコします。
まずは外陰部、特に大陰唇が腫れてきます。触るとボコボコとしているのがよくわかるでしょう。また、静脈の血管は青いので、鏡で患部を見たときに、青い血管がとぐろを巻くようにモコモコしているように見えることもあります。
腫れているのでこすれると痛みがあったり、重い感じや違和感があります。
皮膚ではなく血管に炎症が起こると赤くなってさらに腫れ上がったり、熱が出たりすることもまれにあります。
Q: 陰部に静脈瘤ができた場合、妊娠中にできる治療法や薬、もしくは対処法などはありますか。
A:妊娠中に治すのは難しいです。症状にあわせた対症療法が基本です。
できた静脈瘤を治すことは、妊娠している間は難しいです。そのため、出てきた症状にあわせた対症療法になります。
たとえば皮膚に痛みがあれば塗り薬で炎症をとる等になります。
大陰唇がボコボコしていたりすると、美容の面でも不安かもしれませんが、外陰部静脈瘤も下肢静脈瘤も、多くは分娩後に自然軽快します。
静脈瘤ができた場合には、妊娠中は悪化を防ぐために、下記で紹介する予防法がとても大切になります。
Q:陰部に静脈瘤ができるのを予防する方法はありますか。
A:弾性ストッキングの着用や、寝る際に下肢を上げるなど、いくつか予防法はあります。
前にも書きましたが、下肢静脈瘤の4人に1人が外陰部静脈瘤を合併するといわれています。下肢静脈瘤がある人は特にですが、今、外陰部に違和感がなくても脚に浮腫みやだるさを感じたら、下記の予防法を試してみてください。
もし、予防法をやっても下肢にだるさを感じる、股に痛みをともなう違和感がある場合は、1人で悩まずに一度かかりつけの産婦人科の先生に相談してみてくださいね。
《陰部静脈瘤の予防法》
・弾性ストッキングを着用する
・長時間の立ち仕事をしないようにする
・寝るときに下肢を上げる(脚の下に枕などを敷いて足を心臓よりも上にする)
・適度な運動をする
・入浴とマッサージで血液の流れを良くする
・便秘を予防する
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橋本 尚先生(亀田マタニティ・レディースクリニック 副院長)
産婦人科専門医。医学博士。2003年、愛媛大学医学部医学科卒業。周産期センターや愛媛大学医学部付属病院病棟医長、外来医長などを経て2016年に神戸市灘区の亀田マタニティ・レディースクリニックの副院長に就任。患者さんの小さな疑問や悩みにも丁寧に回答してくれると多くの患者さんから信頼されている。3人の子どもを持つパパドクター。
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