息子の誕生は、私や夫にとっても、そして娘にとっても待ちに待ったものでした。
予定帝王切開が決定しお腹を切ることになっても、なんの抵抗もありませんでした。
息子に会えるから!!
しかし、生まれ出た息子は無呼吸発作を起こし、しばしNICUのお世話になることになりました。
帝王切開跡と後陣痛の激しい痛みに悶絶しながら、息子に会いたい一心で病室からNICUまで通う日々…。
授乳の時間は、数少ない息子とのふれあいの時間でした。
しかし、その授乳の時間に、ある変化が起こり始めます。
息子に授乳し始めると、何故か悪寒を感じるのです。
風邪の引き始めのような、怖い怪談話を聞いた時のような、ゾワゾワとした感覚。
「(風邪でも引いたかな…?)」
そう思いながら、その日は授乳を終えました。
しかし、翌日も、息子に授乳を始めると“ゾワゾワ…”とした感覚が。
なんだろう…!?
やっぱり風邪でも引いたかな…?
と思い、看護師さんに相談してみると…。
「免疫が落ちてるので、風邪かもしれないですね!」
まだ熱は出ていないものの、寝不足だし、一応お腹を切ったあとだし、
風邪を引いてもおかしくないか…。
そう思っていました。
……しかし、その次の日もそのまた次の日も、
熱は無いのに同じ症状はずっと続いていました。
それは、退院した後も…。
あまりの不快感に、私はふと、こう思い始めました。
(私、この子のことを可愛いと思えていないんじゃ…?)
待ちに待った誕生だったのに、こんなに可愛いと思っているはずなのに、
授乳すると悪寒を感じてしまう。
上の娘の時には感じたことのない感覚でした。
腕の中で寝息をたてる息子は本当に可愛くて、いい匂いで、ずっとこうしていたいくらいなのに、
授乳となると、毛虫でも触っているかのように、ゾワゾワと不快感を覚えてしまう。
俗にいう、“生理的にムリ”とか、そういうことなの…?
産後、ワンオペ生活でただでさえ不安定だった心。
たまに手伝いに来てくれる母も「息子の授乳で悪寒を感じる…」なんて言ったら
確実に「母親失格だ!」と怒ってくる激しいタイプです。とても言えませんでした。
私の心には、“私はこの子を心から愛せていないのではないか”というわだかまりが生まれていました。
そんな中、ある日、
九州から友人のお母さんが遊びにやってきました。
このお母さんはベテランの助産師さんで、膠原病の持病がある私の出産を
ずっと気にかけてくださっていた、とても頼れる人生の先輩でした。
この日も東京観光ののち、私のもとへとやってきてくれたお母さん。
息子を抱き上げあやすと、ニコニコと微笑みながら私にこう言いました。
「何か困ってることない?」
困っていることと言ったら、あれしかありません。
私は恐る恐る、口を開きます。
「実は……息子に授乳すると、ゾワゾワした不快感があって…」
「あー!不快性射乳反射って知ってる!?」
「え?」
あまりにも、あっけらかんと、そして即座に出てきた名前。
不快性射乳反射…?
しかし、なんだか物騒な名前だ…
「なんだか物騒な名前だけど、お母さんが不快に感じてるとか、そういうのは関係ないのよ!」
彼女によると、
授乳の際に不快感や嫌悪感を覚える不快性射乳反射は
ディーマー(D-MER)とも呼ばれ、
知る人が聞けばすぐにわかる、産後の症状だそうです。
まさに、目からウロコの事実でした。
この不快性射乳反射は風邪や乳腺炎として思われることもあるそうです。
私も初めは風邪だと思っていたな…。
「とにかく、お母さんの勘違いではないれっきとした身体の反応だから、
身体と心を休めて、つらかったらミルクにすること!」
明るいアドバイスに、ほっと心が軽くなりました。
それからと言うものの、授乳の際にゾワッ…ときても
「(これはホルモンの反応だ…身体の反応だ…)」
と思うと、深く思い詰めることはなくなりました。
ずっと自分の心の反応だと思っていた不快性射乳反射。
息子への愛情が足りないとか、嫌悪感を覚えているわけではないと気付けただけで
私の気持ちは楽になりました。
その後、私の不快性射乳反射は産後3カ月ほどで落ち着き、
息子への授乳も穏やかな時間となりました。
今現在、お子さんへの授乳の際に不快感を覚えてしまい、
ご自身を責めているお母さんがいらっしゃるかもしれません。
でも!
身体の反応であると言われる不快性射乳反射。
月経痛がものすごく重い人、それほど気にならない人がいるように、
正座しても足がしびれる人、しびれない人がいるように、
人それぞれの、個人差のある、抗えない反応なのではないでしょうか。
もしかしたら、この不快性射乳反射によって
授乳を断念するお母さんもいらっしゃるかもしれませんが、
授乳しなくたって、みんな立派なお母さんです。
(私は持病の治療の関係で、息子は一歳を前に卒乳してしまいましたが、
ものすごく元気に育っていますし、ハイパーママっこです)
どうか、不快性射乳反射で悩まれているお母さんが、
ひとりでも「あ…じゃあしょうがないか」と思えますように。
そして、より多くの方に認識され、誤解が減ることを、祈っています。
著者:たんこ
年齢:30代
子ども:2013年生まれの娘と2018年早生まれの息子
発達ゆっくりさんな娘と能天気な夫と、新たに加わった暴れん坊な息子と暮らす、元ひきこもりの凶暴な大根です。
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