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【医師監修】「妊娠高血圧症候群」と言われたらどうする? その予防と治療

妊娠によって母体に負荷がかかり、赤ちゃんが大きくなる妊娠後期に発症しやすくなる「妊娠高血圧症候群」。重症になると母子の生命に関わるリスクの高い妊娠として警戒されています。妊娠高血圧症候群とはどんな病気なのか、どんな人がなりやすいのか、そして予防法や治療など、気になることをまとめて紹介します。

監修医師

村田雄二先生

大阪大学医学部名誉教授。
ベルランド総合病院 周産期医療研究所 所長・医学教育センター長。産婦人科専門医。米国産婦人科専門医。米国周産期医学専門医。

大阪大学医学部卒業後、南カリフォルニア大学医学部産婦人科准教授、カリフォルニア大学アーバイン校医学部産婦人科准教授を経て1986年カリフォルニア大学アーバイン校医学部産婦人科教授に就任。1996年大阪大学医学部産婦人科学教室教授、2002年大阪大学医学部附属病院副院長を経て、2006年同大学名誉教授。日米で産科医療の臨床研究と若手医師の育成に長年携わり、次世代のリーダーとなる人材を多く輩出。2009年より現在の病院にて、日本国内、特に大阪における産婦人科医療体制の整備・充実に尽力している。

妊娠高血圧症候群とはどんな病気?

リスクの高い「高血圧」を主な症状とする病気

妊娠中は循環する血液の量が増えることにともなって心臓から送り出される血液の量も増えるため、血圧が上がるように思われがちですが、実際には、妊娠の初期~中期ではプロスタグランジンやプロゲステロン(黄体ホルモン)の影響で血管が拡張しやすい状態になり、血圧はやや下がる傾向にあります。さらに後期では、徐々に非妊時のレベルまでに戻ります。

一方で、妊娠20週以降に血圧が上昇するのが「妊娠高血圧症候群」です。単一の疾患でなく、下記の4つの型に分類される「症候群」で、妊娠20週以降から分娩後12週までに(あるいは妊娠前~妊娠20週までの時期にも)高血圧が見られる場合、あるいは高血圧にたんぱく尿を伴う場合のいずれかで診断されます。

コラム

妊娠高血圧症候群の4つの分類

◯「妊娠高血圧症」…妊娠20週以降から分娩後12週までに高血圧がある(最高血圧が140mmHg以上、最低血圧が90mmHg以上)
◯「妊娠高血圧腎症」…妊娠20週以降から分娩後12週までに高血圧があり、尿たんぱくが陽性である
◯「高血圧合併妊娠」…妊娠前あるいは妊娠20週までに高血圧がある
◯「加重型妊娠高血圧腎症」…妊娠前あるいは妊娠20週までに高血圧がある「高血圧合併妊娠」の状態に、尿たんぱく、臓器障害などが発現・合併する。

高血圧になると、どんなことが心配なの?

妊娠高血圧症候群のなかでも最も典型的な「妊娠高血圧腎症」では、重症になると次のような合併症を起こしやすく、特に注意が必要です。現在は適切な管理によって深刻なケースは減少していますが、依然として母子死亡の主要な原因となっています。

●赤ちゃんへの影響
胎盤への血液循環が悪くなり、胎盤機能が落ちて赤ちゃんに十分な酸素や栄養が行き渡らなくなってしまいます。その結果、赤ちゃんの発育が悪くなる(胎児発育不全)、胎盤が子宮の壁からはがれて赤ちゃんに酸素が届かなくなる(常位胎盤早期剥離)、赤ちゃんの状態が悪くなる(胎児機能不全)、最悪の場合には赤ちゃんが亡くなってしまう(胎児死亡)ことがあります。

●妊婦さんへの影響
意識消失やけいれんを起こす子癇発作、脳出血、肺に水がたまってくる肺水腫、肝機能障害や血小板減少をともなって血が止まりにくくなるHELLP症候群など、命に関わる重篤な合併症を引き起こすことがあります。

どんな人が妊娠高血圧症候群になりやすい?

リスクのある体質や妊娠に注意

妊婦さんの約20人に1人(約5%)の割合で起こっている妊娠高血圧症候群。原因ははっきりとはわかっていませんが、着床時、受精卵側の絨毛膜が子宮内膜側の脱落膜に入ってくるときにうまくいかず赤ちゃんに栄養が送りにくいことが、血圧の上昇と関与しているということがわかってきています。次のような条件の人は、妊娠高血圧症候群のリスクが高いため注意が必要です。

●妊娠高血圧症候群のリスクがある人
□ もともと糖尿病、高血圧である。または腎臓の病気などを持っている
□ 肥満
□ 母体の年齢が高い(40歳以上)
□ 家族に高血圧の人がいる
□ 双子などの多胎妊娠
□ 初めてのお産(初産婦)
□ 以前に妊娠高血圧症候群になったことがある
(日本産科婦人科学会ホームページより)

妊娠高血圧症候群を悪化させないために

まずは健診をきちんと受けて、早期発見を

妊娠高血圧症候群は原因が明確でないため、予防したり、かかるかどうかを予見したりすることが難しい病気です。そのため、早めに見つけて早めに処置をすることが何より大切です。妊娠高血圧症候群の主要な症状は、高血圧とたんぱく尿ですが、自覚症状はほとんどありません。それだけに毎回の妊婦健診をきちんと受けて、血圧の上昇を見逃さないようにしましょう。母子手帳に記載されている、毎回検査する「血圧」「浮腫」「尿たんぱく」「尿糖」の項目は、妊娠高血圧症候群の予防のためのものです。妊娠前から血圧が高めの人など、上記のリスクが当てはまる人は、自宅でも定期的に血圧をチェックできるようにすると安心です。また、脚だけでなく全身にむくみが見られたときや、目がチカチカする、頭痛がするなどの症状も、妊娠高血圧症候群の兆候なので、気になるときは医師に相談しましょう。

安静に過ごして、できるだけ妊娠を継続する

妊娠高血圧症候群と診断されたら、医師の指導に従い、基本は安静にして過ごします。横になって休むことで、胎盤への血液循環も改善されます。急激な体重増加は血圧上昇につながることがあるため、適度な増加を心がけましょう。また、過度な塩分制限は必要ありません。重症の場合は入院して血圧の管理をしながら、胎盤機能や赤ちゃんの状態のチェックを厳重に行います。

こうして母体の状態と赤ちゃんの健康を見守りながら正期産になるまで妊娠を継続していきますが、母子ともに危険な状態が予想されれば、早い週数でも母体の安全のために帝王切開や誘発分娩で出産となることも。出産すれば妊娠中の重い負担がなくなり、母体は急速によくなります。

この記事のまとめ

リスクのある人は要注意。母子の命にもかかわる病気

妊娠中のトラブルとして、最も警戒すべき「妊娠高血圧症候群」。高齢妊娠などリスクの高い人はもちろん、高血圧の兆候がない人も、妊娠中は体に負荷がかかっていることを理解して、きちんと妊婦健診を受けるなど、予防と健康状態のチェックに努めましょう。もし診断を受けたら安静第一で過ごし、医師のもとでしっかりと血圧管理を行いながら、妊婦さん自身の健康とおなかの赤ちゃんの成長を守っていきましょう。

構成・文/
福永真弓
イラスト/
小波田えま

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