わたしが妊娠中に体験したワースト・オブ・修羅場は、夫の転職騒動である。
一時期はそれで仲が険悪になって別居していたぐらいだ。
確かあれは妊娠5か月くらいの頃だっただろうか。
夫が突然、「仕事をやめる」と言いだしたのだ。
それも転職をするのではなく、脱サラして飲食店を開きたいというのである。
わたしが顔の配置が変わるほどびっくりしてしまったのも無理はない。
夫とはそれまで10年弱一緒に過ごしていたが、飲食店を開きたいなどという話は1度も聞いたことがなかったのだ。
それが昔からの夢でそのための準備も万全であるならばわたしが言うことは何もない。
夫にはやりたいことをやってほしいし、仕事のことに干渉するつもりはさらさらない。
しかし、しかしだよ?
よくよく聞いてみれば「もしかしたら◯◯さんが資金を出してくれるかもしれないから」とかいう大変ふわっとした理由でどうやら開業に興味がわいたらしいのである。
もちろん仕事としての調理経験などない。
素直に思った。
「それはやめたほうがいいよ。」
いや、100歩譲ってどんなにふわっとした理由であっても「◯◯したい」っていう気持ちはすごく大事だし、わたしはそういう話は嫌いじゃない。むしろ好き。
しかし、しかしだよ?
今もうすでに大きくなり始めたお腹を抱え、そんなときに「これから収入ゼロになるかもしれないけれどよろしく!」と言われているようなものなのだ。脱サラするということはそういうことだろう。
わたしは産後1年間は仕事を休むつもりでいたので、その間どちらの収入もストップしてしまうことになれば一家は路頭に迷うことになる。
貯金だって全然ないのだ。
つまりわたしの気持ちとしてはもうただただこの言葉に集約される。
「それ、いま言う?」
だってさだってさ、なんでよりによってこのタイミングなのよ?
今の職場は社長がとても魅力的な人で出世も順調だとか言ってたじゃん。
それでも夫はなぜかもう心に決めてしまったらしく、仕事をやめる旨も上司に伝えてしまったという。
しばらくはそこでバイトとしてやりながら、開業の準備を進めるのだという。
わたしは大変心がモヤモヤとしたが、だったらやってみればと言うしかなかった。
その選択肢しか用意されていなかったのだ。
そしてその後も夫の快進撃(?)は続く。
開業の準備?まあやらない。
時間ができたのをいいことに家でゴロゴロ。
収入が激減したわが家の家計は火の車。
わたしは、キレた。
それから1か月間、実家に帰ることにした。
「開業の準備は?」と聞いても「うるさいな」としか言わない夫の気持ちが全くわからなかったし、このまま夫婦としてやっていく自信もなくなってしまったのだ。
もっとも、ひとりで産んで育てるなんて自信もないのだけれど。
予想もしなかった危機が訪れて、わたしは毎日泣いた。
今考えれば、夫にとっても「子どもが産まれる」ということが相当なプレッシャーだったのだと思う。
わたしもそうだけど、今までさんざん好き勝手やってきた夫にとって、「これからはしっかりしなければいけないな」という思いも少なからずあっただろう。
そんな思いの中で、「俺は今のままでいいのか?この仕事をずっと続けていくのか?」という考えに発展していったのかもしれない。
夫はその後、開業準備を進めることができず、わたしの勧めで飲食業界に転職することになった。(開業するなら経験を積んでからの方がいいと諭しまくった)
夫は娘が3歳になった今もその職場で働いている。
いわゆる「ブラック」とよばれる業界(拘束時間が長いから)ではあるものの、夫はこの仕事が自分の「天職」であると言い切る。わたしもそう思う。なんか前より楽しそうだもん。
妊娠中のあのとき、わたしはもう目の前が真っ暗になって、自分の身に降りかかった悲劇をただただ憂いていた。
周りからも「離婚したほうがいい」なんて言われて自信もなくなった。
だけどやっぱり、一緒にやっていきたいんだよなあという気持ちが、その修羅場を乗り越えさせたのだと思う。
この騒動のときはさんざん気持ちが萎んでしまっていた夫だけれど、産後にわたしの精神が不安定になったときは随分と助けてもらったものだ。
「離婚だ!離婚だ!」という言葉が頻繁に飛び交うわが家なもんで、こういう修羅場はこれからも出てくるのかもしれないけれど、案外こんな感じでずっとやっていくのかもしれない。
夫は言う。
「あのとき素人のまま開業なんてしなくてよかった…。」
妻は言う。
「正気に戻ってくれて良かったわ。」
美談にもならない夫婦の話…完。
>>次回のエピソード:産後入院中の妻に夫が見せた気づかいとは。そのとき妻は…
ゼクシィBaby WEB MAGAZINEの記事
著者:はなこ
年齢:28歳
子どもの年齢:3歳
2012年生まれの娘を持つ1児の母。娘との日常を描いた はなこのブログ。や はなこの約4コマブログ を運営し、日々くだらないことばかり書いている。重度の親バカ。 また、自身の育児体験を活かし ママと赤ちゃんの産後MEMO にて産後のママのための情報も発信中。
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