6年前に緊急帝王切開で長女を、4年前に帝王切開で次女を出産したというあさのゆきこさん。帝王切開の手術自体は問題なく行われ、傷痕もきれいとのことですが、今でも仰向けに寝転がり咳をしたり、おなかに力をいれたりするとひきつれるような痛みがやってくるそう。
傷む部分はジャスト傷痕部分ではなく、少し左上とのこと。
「いったい何の痛みなのか…」と考えたときに思い出したのが、帝王切開をする際に注意点として聞いた組織同士の「癒着」の話。あさのさんは、この痛みを癒着に因る痛みなのではないかと考えているようです。
そこで帝王切開後に起こる可能性のある癒着とはどんな状態のことか、起こりやすい時期、あさのさんが感じている痛みは癒着に因るものかを、産婦人科医として多くの分娩に立ち会った経験を持つ、田園調布オリーブレディースクリニックの杉山太朗院長に教えていただきました。
Q:帝王切開後に心配される癒着とはどういう状態を指すのでしょうか。
A:手術後に治る過程で本来離れているはずの組織がくっついてしまうことです。
帝王切開をはじめ手術によって開腹した際、傷跡を縫合し、組織と臓器を自然治癒させていく過程で本来離れている組織同士がくっついてしまうことを「癒着」といいます。
開腹手術ではかなり高い確率で生じるとされています。開腹手術で臓器にふれるとそれが刺激となって炎症を起こし、癒着しやすくなるためです。
ただ、帝王切開の場合、臓器の感染はないので炎症は起こりにくく、切開したところ以外は、そんなに癒着する心配はないでしょう。また、本人の体質により癒着の可能性は変わりますし、縫合方法や手術を担当する先生のスキルなどによっても変わってきます。
Q:癒着するとどんな症状が起こりますか。
A:主に下腹部痛や膀胱や腸のトラブルなどが生じます。無症状の場合も。
癒着の症状はさまざまで、無症状の場合もあります。一方、後からさまざまな後遺症を引き起こすものもあります。主には慢性的な下腹部痛や膀胱の機能障害、便秘や食物や消化液などが通る腸管が詰まってしまう腸閉塞などの腸にまつわるトラブルがそれにあたります。いずれのトラブルも命にかかわるようなものは少ないので、安心してください。
Q:癒着が起こりやすい時期はありますか。
A:主に手術終了後すぐ~7日目あたりに起こりやすいといわれています。
癒着は、一般的に手術終了後当日から始まり、7日目頃に起こりやすいといわれています。
Q:帝王切開後の癒着の予防法をお教えください。
A:手術の際に癒着防止シートを貼ったり、手術後7日目までに動いたりして予防します。
一般的には癒着を予防するために、かつては手術後7日目までにベッドから起き上がって動くように促したりしていました。
今は、癒着防止シートという布状やフィルム状のシートで臓器を覆い、手術した部分と他の臓器を離すようにする場合もあります。
ちなみに癒着防止シートは、貼りつけた後はゼリー状になって手術部分をバリアし、1カ月ほどすると自然と体内へ吸収されていきます。
また、薬を使用して癒着を防ぐ方法もあります。薬の作用によって腸などを動かして、腹膜との長時間の接触を避ける試みや、薬により炎症細胞の出現を遅らせて癒着を防止します。
いずれの方法を選択するかは患者さんの特性や先生の方針などによって決まることが多いです。
Q:体験者のあさのさんのように帝王切開から1年後に痛みを感じた場合、それは癒着による痛みなのでしょうか。
A:癒着による痛みではなく、恐らく手術痕の筋膜が固くなってひきつれたことに因るものです。
体験者のあさのさんの場合、おそらく癒着のようにおなかの内部で起こっている痛みではないと考えられます。手術の傷痕部分の筋膜(筋肉を包む膜)が固くなりひきつれることで生じる痛みなのではないかと思います。
血流が悪くなったり、筋肉の伸縮がうまくいかなくなったりすると痛みを感じやすくなることもあります。 また、交感神経の働きが活発化すると血管の収縮が起こり、古傷やまわりの痛覚神経が高ぶって、痛みを感じやすくなります。
また帝王切開に限らず、皮膚を切開する手術の後遺症として上記のような痛みのほか、かゆみが出る場合もあります。
Q:ずっと痛い、痛みが気になっていつも通りの生活ができない場合はどうしたらいいでしょうか。
A:近くの産婦人科を受診してみてください。
恐らくそんなに強い痛みではないと思いますが、なかなか痛みがひかない、痛みが気になって日常生活に支障が出る場合は、近くの産婦人科を受診し、相談をしてみてください。場合によってはそこから他科を紹介されることがあるでしょう。
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杉山太朗先生
医学博士。田園調布オリーブレディースクリニック院長。
2001年信州大学卒業後、東海大学医学部付属病院、東海大学医学部専門診療学系産婦人科講師を経て、2017年に田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。やさしい先生のお人柄とわかりやすくソフトな説明に惹かれ、遠方から通う患者さんも多い。4人のお子さまのパパ。
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