2歳をすぎても言葉はなかなか増えず、発達支援センターに面談に行くことにしました。このときも発達障がいの可能性には全く気づいておらず、むしろ「2才の子はこういうものですよ」と軽くあしらわれたら恥ずかしいなと思っていました。
発達支援センターのプレイルームにはボールプールなど魅力的なオモチャが揃っていました。片隅に置かれたテーブルでわたしは保健師さんに成育過程を話し、ヒルマは心理士さんと遊びながら発達検査を受けました。ところがヒルマは相変わらずマイペースに動き回り、発達検査を最後まで受けることが出来ませんでした。
「子どもは大人の言うことを聞かず、自分勝手なように見えますが──」と、発達検査を担当した心理士さんが言いました。「たとえば好きなおもちゃで遊んでいるときに大人に話しかけられると、子どもは『しかたないなあ、聞いてやるか』といった感じで、話を聞いてくれます。子どもは大人の都合に合わせてくれているんです」
それはあきらかにヒルマには当てはまらないことでした。
さらに、言葉の遅れについて説明を受けました。
子どもは言葉を覚えるとき、「お母さんが見ているもの」に興味を持つそうです。お母さんの目線を追うことで、興味が広がって行くのだそうです。そしてこの行動が、ヒルマには見られないというのです。
お気に入りのオモチャで遊んでいるとき、話しかけても無反応なのは、ヒルマの場合それが原因だそうです。ヒルマは自分に興味のあるものしか見ていない。ヒルマは自分の世界にいました。
「よくここまで育てましたね。すごいです」
とやさしい言葉をかけてもらったとたん、涙がポロポロこぼれました。わたしは育児に疲れ切っていました。さらに、「じつは子育てはもっと楽なんです」と言われて驚きました。
わたしがこんなに疲れるのは、歳のせいだと思っていたし、夫からもわたしの育て方はよくないと責められていたし……。
「育て方ではないんです。ヒルマくんは、むずかしい子です」と太鼓判を押され、気持ちが楽になったのでした。