年の差、1歳半の姉弟を育てるわさびさんは、生理のたびに卵巣に血液の成分がたまるチョコレート嚢胞を患っていたといいます。卵巣破裂や捻転のリスクがあることから、治療のため20歳から低用量ピルを服用していたそう。服用中は出血量が減り、生理が軽くて快適に。でも26歳の時に妊活を決意し、服用をやめました。" "
医師からは「服用をやめてから1~2カ月は排卵が正常にもどらないかも」と言われていたのに、想定よりも早く妊娠できたそうです。
そこで、低用量ピルとはどんな薬か、低用量ピルを服用していたことによる妊娠への影響などについて田園調布オリーブレディースクリニック院長の杉山太朗先生に教えていただきました。
Q:低用量ピルとはどんな薬ですか。
A:排卵を抑え、子宮内膜の増殖を抑える働きのある薬です。
低用量ピルとは卵胞ホルモンと黄体ホルモンという2つの女性ホルモンを合わせて作られた薬です。
服用することで排卵を抑え、受精卵の着床にかかわる子宮内膜の増殖を抑える働きがあります。
ちなみに何が「低用量」なのかというと、薬に含まれる卵胞ホルモンの量です。以前は、今よりも多く卵胞ホルモンが含まれていました。ただその分、血栓症になるリスクも高かったため、今はその時に比べて少ない量になっています。
Q:主にどういった症状に効果がありますか。
A:よく知られているのは避妊。そのほか月経痛や過多月経、PMS、ニキビなどの症状も改善させる働きがあります。
低用量ピルをのむ理由としてよく知られているのが避妊です。その効果は高く、正しく服用すれば避妊の失敗率は0.3%ともいわれています。
服用中は子宮内膜が増えるのを抑える効果があるため、月経痛や生理時の経血量が多くなってしまう過多月経にも効きめが。またホルモンバランスを整える役割もあるためPMS(月経前症候群)やニキビなどの症状を和らげるともいわれています。
また、排卵しづらい人に、体の状態を一度整えて通常の排卵サイクルに戻すために服用してもらうケースも。
避妊目的で処方される場合は自費になりますが、生理痛やPMSの症状を抑えるために処方される場合は保険適用になります(適応病名は月経困難症)。
Q:低用量ピルを服用する際の注意点をお教えください。
A:一番注意したいのは命にかかわる肺血栓症や心筋梗塞、脳卒中のリスク。
低用量ピルで最も注意が必要なのは、体内にできた血のかたまりが血液の流れにのって肺へ行き、肺を詰まらせてしまう肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)や心筋梗塞、脳卒中といった血管に伴う副作用です。服用を始めてから最初の3カ月が血栓症のリスクが高いため、血圧を測るなど定期的に通院をしてチェックすることが大切です。割合としては10000人に3~6人程度。喫煙されている場合はリスクが高くなるため注意が必要です。
その他、服用を開始すると不正出血や気持ち悪さ、体重増加、胸がはるような感覚、頭痛などがあらわれる方がいます。いずれの症状についても内服の継続により、落ち着いてくる傾向に。でもなかなかおさまらないときは我慢せずに主治医の先生に相談をしてみてください。
Q:通常、服用をやめるとどのくらいで排卵が正常になりますか。
A:服用後、約3カ月以内に約90%の方が排卵を再開しているそうです。
低用量ピルに関する日本産科婦人科学会の「OC・LEPガイドライン2020年度版」という低用量ピルのガイドラインによると、「服用終了後、3カ月以内に約90%で排卵が再開する」とあります。ただ個人差があると考えてください。
流れとしては服用中止後、ホルモンバランスが変わることで子宮内膜がはがれ落ちる消退出血という出血がおこり、その後、排卵が起こり、そして生理がくるというサイクルに戻ります。
Q:過去にピルを服用していた場合、妊娠率に影響はありますか。
A:長期に服用していても中止後の妊娠する力に影響はありません。
さきほどの日本産科婦人科学会の「OC・LEPガイドライン2020年度版」には、長期に服用していても中止後の妊孕性(妊娠する力)に影響しないとされています。もし月経痛がひどくて悩んでいる方の中に「将来、妊娠したいから…」と、服用をためらっている方がいましたら、心配はいらないので、かかりつけ医に相談をしてみてください。
Q:低用量ピルをやめた後に注意したいことなどがありましたらお教えください。
A:もともと月経不順で低用量ピルを飲んでいた場合は、月経不順に戻る可能性があるため注意が必要。
低用量ピルを服用し始めた理由が、月経不順の場合、薬の服用をやめると再び月経不順になってしまう可能性があります。月経不順の場合、定期的に排卵しなくなる可能性が高いため、妊娠したい場合は排卵をスムーズにさせる治療が必要になる可能性があります。
わさびさんのように産婦人科医に相談しながら、薬をやめるタイミングなどを決めるといいでしょう。
妊娠時期別記事
杉山太朗先生
医学博士。田園調布オリーブレディースクリニック院長。
2001年信州大学卒業後、東海大学医学部付属病院、東海大学医学部専門診療学系産婦人科講師を経て、2017年に田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。やさしい先生のお人柄とわかりやすくソフトな説明に惹かれ、遠方から通う患者さんも多い。4人のお子さまのパパ。
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