白目みさえさんは、1人目を帝王切開で出産しました。しばらくは帝王切開の麻酔が効いていたので痛みは感じなかったものの、本来なら麻酔が切れはじめてくると少しずつ手術の痛みが強くなってくるそう。
ただ、白目みさえさんが出産した病院では、PCAという装置を使って帝王切開後の痛みを緩和する方法を導入していたそう。そのおかげで手術後も痛みに悶絶することがほとんどなかったと、体験記で語っています。
この白目みさえさんが体験したPCAとはどんなものなのでしょうか。帝王切開後のPCAについて詳しい筑波大学医学部付属病院の麻酔科医として活躍されている山田久美子先生に、PCAについての基礎知識を教えてもらいました。
Q:白目みさえさんが体験されたPCAとはどんなものなのでしょうか。
A:帝王切開後の痛みに応じて痛み止めの量をコントロールできる装置。
PCAとはpatient controlled analgesia:自己調節型鎮痛の略です。専用のPCAポンプを通して痛み止めが持続的に投与されており、痛みを感じたらご自身でボタンを押していただくことで痛み止めを追加して投与することが可能な方法です。
Q:今は帝王切開後にPCAを行っている病院は多いのでしょうか。
A:1990年代頃から行われている鎮痛法で、比較的多くの病院で行われています。
PCAは、一般的な「手術後の鎮痛法」となっているので、帝王切開の後などに使用している病院は比較的多いと思われます。ちなみに日本におけるPCAを用いた術後鎮痛法は1990年代から行われています。
Q:体験者の白目みさえさんは、最初にPCAのボタンを押してから10分後に再び痛みを感じ、その後10分おきぐらいに押していますが、そんなに頻繁に押しても大丈夫でしょうか。
A:用いる薬剤によって押すタイミングや間隔は異なります。
PCAを用いた鎮痛方法には、経静脈的鎮痛(点滴の痛み止め)と硬膜外鎮痛(背中の麻酔)があります。
用いる薬剤が施設ごとで異なるので、ボタンを押す間隔は一概には言えませんが、だいたい経静脈的鎮痛で5~15分、硬膜外鎮痛で15~30分程度です。痛い時は続けてボタンを押すことでその後の効果が安定してきます。
Q:白目みさえさんは「10分毎は押しすぎかも…」と、痛いのにもかかわらず、ボタンを押すのを我慢していましたが…。
A:ご自身が痛みを感じたらボタンを押してください
ポンプの設定は患者さんの状態に応じて個々に設定されていて、押しすぎても設定している以上は、薬剤が入り過ぎないようになっています。ご自身が「痛い!」と感じたときに押していただくことで、効果が安定するので、不安がらずに押してくださいね。
また、痛みを我慢しすぎると痛み止めが効きにくくなりますので、決して我慢はしないでください。
もし、押しても痛い場合にはポンプの設定の変更や、別の痛み止めを併用することを検討します。遠慮せずに医療機関のスタッフに伝えてみてください。
Q:帝王切開後にPCAで痛みをコントロールした場合、どんなメリットがあるかをお教えください。
A:痛みに対して素早く対応できるが最大のメリットです。
PCAがないと、痛みを感じたらまず看護師さんを呼んで、看護師さんが痛みの確認をし、主治医の指示のもと、痛み止めを準備して、痛み止めを投与する…というたくさんのステップが必要になります。そうなると、実際に薬を追加できるまでに時間がかかりますよね。
ママによっては、忙しそうなスタッフを見て「痛いけれど、ちょっとお願いしづらいなぁ…」と、伝えるのを遠慮して我慢してしまうケースもあると思います。その点、PCAは、痛みを感じたら自分でボタンを押せば追加で痛み止めを投与することができます。
また、手術後の動き始めは痛みを感じやすいことも。動く前にボタンを押して、前もって痛みに備えておくという便利な使い方もできます。
Q:PCAで痛みをコントロールした場合の注意点がありましたらお教えください。
A:気分が悪い、足のしびれなど違和感がある時は、スタッフに伝えましょう。
ボタンを押したら気分が悪くなった、足のしびれが出てきたなど、気になる症状があったらスタッフに早めに伝えるようにしましょう。そのままボタンを押し続けるともっと症状が悪くなったり、歩くのに支障が出てしまう可能性も考えられます。
それぞれの人にあわせて安全な量を設定していますが、効果や副作用の現れ方には個人差があります。PCAをする際は、効果や副作用をご本人に確認。そのうえでポンプの設定を変更、他の痛み止めを併用することがあります。
Q:この後白目みさえさんは、予想をしていなかった後陣痛の痛みと戦うことになるのですが、後陣痛の痛み緩和に鎮痛剤は効くのでしょうか。また、帝王切開後の後陣痛の鎮痛にPCAを使うことはありますか。
A:後陣痛にはある程度有効ですが、不十分な場合は他の痛み止めを併用することも。
我慢せずに病院スタッフに伝えて。
帝王切開後は切開したキズの痛みのほかに、子宮収縮による後陣痛が起きます。後陣痛に対してもPCAはある程度有効ですが、不十分であることも多くあります。その場合は他の痛み止めの併用を考慮します。1種類の鎮痛法にこだわらずに、痛みのおさえ方の仕組みが違う痛み止めを組み合わせたほうがより効果が期待できますし、副作用も起きにくいです。キズの痛みであっても、後陣痛であっても、痛みが強い場合にはスタッフに伝えましょう。
帝王切開後の痛みに対して素早く対応し、緩和してくれるPCA。個人差はありますが、手術後の痛みによるストレスが減った分、赤ちゃんのお世話をスムーズにできるようになったという人もいるようです。
病院によってはPCAを行っていない医療機関もあるので、主治医や医療機関のスタッフに前もって聞いてみてくださいね。
ゼクシィBaby WEB MAGAZINEの記事
山田 久美子先生
筑波大学医学部付属病院 麻酔科医
2005年筑波大学医学部卒業。筑波大学附属病院、筑波学園病院、国立病院機構霞ヶ浦医療センター勤務を経て、現在、筑波大学附属病院麻酔科に勤務。ご自身の出産経験や子育て経験などを活かし、妊婦さんをはじめ患者さんにわかりやすい解説やアドバイスをおこなっている。
日本麻酔科学会専門医、日本麻酔科学会指導医、日本ペインクリニック学会専門医
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