妊娠中に特定のものがとても食べたくなったという妊婦さんは少なくありません。園内せなさんの場合は、それがレアチーズケーキだったそう。ただ材料のクリームチーズは、妊娠中に食べない方がいいと聞いていたため、1人目妊娠中のときは我慢していたとのことです。
2人目を妊娠したときもレアチーズを食べたいという気持ちになったので、本当にダメなのか調べ直したところ、食べてもOKなものがあることがわかったといいます。
妊娠中にクリームチーズを食べない方がいい理由や、どんなチーズなら食べてもOKなのか、クリームチーズ以外に妊娠中は避けた方がいい食材などについて、多くの妊婦さんの健康をサポートしている田園調布オリーブレディースクリニック院長の杉山先生に教えてもらいました。
Q:妊娠中にクリームチーズを食べない方がいい理由は、加熱処理をしていないからということですが、なぜ妊娠中は食べない方がいいのでしょうか。
A:リステリア菌感染の恐れがあるためです。
リステリア菌とは、河川の水や動物の腸管など、私たちの生活環境に広くいる細菌です。リステリア菌が付着している食品を摂取することでリステリア菌感染症を発症します。
Q:リステリア菌に妊婦さんが感染するとどのような症状がおこりますか。
A:主な症状は発熱や筋肉痛、嘔吐や下痢など。妊婦さんは発症しやすいので要注意。
発症すると発熱や筋肉痛などがみられ、なかには嘔吐や下痢といった胃腸炎症状があらわれることもあります。神経系統まで感染が拡大してしまうと頭痛、ふらつき、けいれんなどを引き起こす可能性も。さらに腸管から血液中に細菌が入ってしまうと侵襲性リステリア症といって髄膜炎や敗血症などを引き起こす可能性があります。
一般的に免疫力が落ちる妊娠中は、妊娠していないときに比べてかかりやすく、侵襲性リステリア症を発症する可能性が高い傾向にあります。そうなると妊婦さんご自身にも症状があらわれますが、おなかの赤ちゃんが大きな影響を受けることになり早産や新生児の髄膜脳炎、敗血症、死産などを引き起こすこともあるので、要注意です。とりわけ妊娠初期にかかると胎児に影響が出る可能性が高くなります。
一方で感染しても何の症状もあらわれないという方もいるようです。
Q:リステリア菌は、加熱していないチーズ以外にどんなものに含まれていることが多いでしょうか。
A:生ハムなどの食肉加工品やスモークサーモンなどの加工品で感染例がみられました。
過去にあったものとしては、クリームチーズ以外に生ハムなどの食肉加工品や、スモークサーモンなどの食肉や魚介類の加工品などから感染した例があります。また、海外では未殺菌の牛乳や生野菜サラダ、冷凍野菜、ニワトリやアヒル、ガチョウなどの生肉、コンビーフやサラミなどからも感染したという例が報告されています。ただ。これは不衛生な調理環境に因る可能性もあります。
Q.妊娠中に食べてはダメなチーズ、食べても良いチーズを教えてください。
<食べるのはNG>
・非加熱処理のクリームチーズ
・モッツァレラチーズ
・カマンベールチーズ
・リコッタチーズ
・ゴーダチーズ
※特に輸入されたナチュラルチーズ類には注意!
<食べてOK>
・加熱処理している原材料を使ったプロセスチーズ
・国内で作られたクリームチーズ、カッテージチーズ
非加熱処理のチーズはリステリア菌感染のリスクがあるためNGです。非加熱処理のチーズには、クリームチーズのほかにモッツァレラチーズ、カマンベールチーズなどがあります。またスイーツなどで使われるリコッタチーズもナチュラルチーズの仲間です。
ただこういったナチュラルチーズでも国内で作られているものは、加熱処理されているので問題ないと考えていいでしょう。
ただ、輸入されたナチュラルチーズ、またはゴーダチーズをはじめとしたハードタイプは未殺菌の原材料をはじめ、どんな原材料を使って作られているのかわからないこともあるので、できれば避けた方がいいです。
一方、加熱処理している原材料を使ったプロセスチーズや国内で作られたクリームチーズ、カッテージチーズなどは問題ありません。また、ナチュラルチーズを一度粉砕し、加熱、融解して作られているプロセスチーズは、食べても問題ありません。ナチュラルチーズでも国内の大手メーカーから販売されているものであれば、原材料に使う牛乳を必ず加熱処理しているので、食べても問題ありません。
Q:妊娠中にこのチーズを食べてもいいか迷った場合は、どうしたらいいでしょうか。
A:製造元に一度確認するのがいいでしょう。
ご自身でパッケージの裏を確認しても原材料がきちんと加熱処理されているかわかりづらいものが多いです。また、かかりつけ医や産科施設のスタッフに聞いてもわからないことが多いでしょう。
「これ食べても大丈夫かな」と思ったら、一度製造元に確認してみてください。
Q:非加熱処理のチーズと同様に、妊娠中に食べる際に注意したい食べ物や控えたい食べ物がありましたらお教えください。
A:生肉や洗っていない果物や生野菜はリステリア菌のほか、トキソプラズマに汚染されている可能性があるのでできるだけ避けてください。
リステリア菌とならんで妊娠中に気をつけたい感染症として気を付けたいのがトキソプラズマです。
トキソプラズマは、加熱が不十分な肉や、洗っていない果物や野菜から見つかる原虫のことです。妊娠中に初めてトキソプラズマに感染すると、おなかの中の赤ちゃんに目や耳の障がいが出たり、精神的な発達の遅れがみられることがあります。また、生まれてすぐにはわからず、後から目や脳にトラブルが見つかる場合があります。
こういったリステリア菌やトキソプラズマの感染を防ぐためには、食べる前に食品を充分に加熱するようにしてください。果実や野菜は、しっかり皮をむいたり、水で充分に洗うことが大切です。さらに生肉をさわった手で別の食品や包丁、お皿などに触れてしまうと、それらも菌で汚染されてしまう場合があります。生肉や魚を触ったら、その都度手を洗ってください。また、生肉を切った包丁やまな板、流しも台所用洗剤でしっかり洗うようにしましょう。
予防法はいずれも一般的な食中毒対策と同じになります。難しいことはありませんので、ぜひ実践してみてくださいね。
Q:もし確認しないまま輸入チーズなどを食べてしまい、その後に体調に異変が見られたらどうしたらいいでしょうか。
A:食べた日時や現在の体調を、まずは電話でかかりつけの産婦人科医に連絡をしてください。
いきなりかかりつけの産婦人科を受診するのは、飛沫感染や空気感染をする他の疾患だった場合に、他の妊婦さんに感染させてしまう可能性もあるのでやめましょう。
まずは電話などで体調不良の原因となる食品を食べた日時(分かっている場合)、現在の体調などを伝えてみてくださいね。
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杉山太朗先生
医学博士。田園調布オリーブレディースクリニック院長。
2001年信州大学卒業後、東海大学医学部付属病院、東海大学医学部専門診療学系産婦人科講師を経て、2017年に田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。やさしい先生のお人柄とわかりやすくソフトな説明に惹かれ、遠方から通う患者さんも多い。4人のお子さまのパパ。
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