1人目を妊娠した際もこれといったトラブルもなく、無事に出産。そして2人目の妊娠も何のトラブルもなく順調だったというわさびさん。
それなのに、妊娠7カ月の時に血糖値検査でひっかかってしまったそう。その後、再検査をしたところ「妊娠糖尿病」と診断され、管理入院をすることに…。
そこで、妊娠糖尿病とはどんな病気か、赤ちゃんへのリスクや普通の糖尿病との違い、なってしまった場合は入院になるのかなどを、田園調布オリーブレディースクリニック院長の杉山太朗先生に教えてもらいました。
Q:妊娠糖尿病とはどんな病気ですか。また、普通の糖尿病との違いをお教えください。
A:妊娠中に胎盤ホルモンの影響で血糖値が上昇する病気。普通の糖尿病と違い、出産が終わると症状が治まる傾向に。
妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発症する糖代謝異常を引き起こすトラブルです。
普通の糖尿病は、インスリンを作るすい臓の細胞が何かしらの原因で壊されることで充分に作用しなくなり、血糖値が高くなってしまう病気です。高カロリーなメニューをたくさん食べる、運動不足、肥満などの生活習慣が原因で発症するといわれています。
一方で妊娠糖尿病は、胎盤から出るホルモンが原因で血糖値が上昇。そのため、出産が終わり、胎盤を外に出すと症状が治まるケースがほとんどです。
2010年から基準が厳しくなったため、わさびさんのように妊娠糖尿病検査でひっかかる妊婦さんが増えつつあります。
Q::妊娠糖尿病になった場合、どのようなリスクがあるかお教えください。
A:妊娠高血圧症候群や胎児発育不全など、妊婦さん、赤ちゃん双方にトラブルが起こる可能性が!
お母さんが高血糖であると、おなかの中の赤ちゃんも高血糖になり、妊娠高血圧症候群や、胎児発育不全、赤ちゃんが大きくなりすぎることによる難産など、さまざまな合併症を引き起こす可能性が高くなります。
Q:妊娠糖尿病になりやすい人の傾向がありましたらお教えください。また妊娠糖尿病になると、産後も糖尿病になる確率は高くなりますか。
A:肥満や35歳以上の高齢妊娠、家族に糖尿病の人がいる場合は要注意。妊娠糖尿病になると、将来糖尿病になる確率は約7倍に。
妊娠前から肥満な人、妊娠中に急激に体重が増えて太り気味の人は、なりやすいので要注意です。さらに、35歳以上の高齢妊娠の方や、前のお産で4000gぐらいの大きな赤ちゃんを分娩したことがある妊婦さん、羊水が多すぎると言われた人、妊娠高血圧症候群を発症している人なども妊娠糖尿病になるリスクが高いといえるので、気を付けてください。
また、妊娠糖尿病になった方は、妊娠糖尿病のなかった人に比べ、約7倍の高頻度で、将来2型糖尿病になるといわれています。
Q: 体験記の筆者、わさびさんは「1人目の妊娠のときも何回か検査はありましたが…」と書いていますが、妊娠糖尿病の検査は、いつ頃行われますか。
A:妊娠初期と中期で1回ずつ行われます。
まず、妊娠初期にスクリーニング検査といって、食事の時間に関係なく普段の血糖値を調べる検査を行います。
この数値が高かった場合、ブドウ糖負荷試験を実施。空腹時の血糖値を調べ、その後に検査用の甘いジュースを飲み、1時間後、2時間後の血糖値を測定します。空腹時、1時間後の血糖値、2時間後の血糖値、いずれか1つでも以下の基準にあてはまった場合は、妊娠糖尿病と診断されます。
《妊娠糖尿病の基準値》
空腹時の⾎糖値≧92mg/dL、1時間値≧180mg/dL、2時間値≧153mg/dL。
妊娠初期に陰性であった人も、妊娠が進むにつれ血糖を下げるインスリンというホルモンが効きにくくなるため、妊娠中期(24~28週)にもう一度、血糖をチェック(随時血糖かスクリーニング糖負荷試験)し、そこで数値が基準以上の場合は、ブドウ糖負荷試験を行います。
Q:体験記の筆者、わさびさんは、2回検査をして2回とも数値が基準値以上だったことで管理入院をしています。このように2回の検査で数値が基準より高いと、一般的には入院になるのでしょうか。
A:妊娠糖尿病の程度や施設によって入院するかは異なります。
入院するかどうかは施設によって異なります。軽症の場合は栄養指導を受けてもらうだけの施設もあります。一方で、妊娠糖尿病と診断された場合は、全例入院してもらい、食事療法や血糖値の管理をしっかり行う医療施設もあります。
Q:妊娠糖尿病と診断された場合、一般的にどのような治療になりますか。体験記の筆者、わさびさんは、毎回の食事に気を付けるようお医者さんと栄養士さんに言われていますが、具体的にどんなことに気を付ければいいでしょうか。
A:基本は1回の食事量を減らし、小分けにして食べるようにして、血糖値をコントロールしましょう。
妊娠糖尿病の治療は、まずは「食事療法」で血糖値を管理することが基本です。食事療法で改善が見られない場合、インスリン注射を投与する「インスリン療法」を行います。
食事療法中は、標準体重をもとに決められた1日の総摂取カロリー内で、栄養バランスがとれた食事を4~6回に分けてとる「分割食(分食)」をするよう指導されます。妊娠中の血糖値は空腹時に低く、食後に高くなりやすい特徴があるため、1回の食事量を減らして回数を増やすことで、血糖値の急激な上昇を抑える効果が期待できます。
また、食事の際は以下のことにも気をつけましょう。
・栄養バランスを整える
炭水化物、タンパク質、ビタミン、ミネラル(無機質)、脂質の5大栄養素や食物繊維がバランス良くとれるメニューにしましょう。
・糖質と塩分を控える
糖質の多い甘いものは控える必要があります。また、塩分を摂りすぎると、妊娠高血圧症候群を合併するリスクが高まるため、薄味をこころがけて。
・食べる順を工夫する
野菜には糖質の吸収を穏やかにする食物繊維が豊富に含まれているので、まず初めに野菜のおかずを食べます。次にタンパク質中心の主菜を食べ、最後に糖質が多いご飯やパンなどの主食を食べるようにすることで、血糖値の急上昇を防ぐことができ、太りづらくなります。
・軽い運動をする
急激な血糖値上昇を抑える働きがあるので、食後に軽い運動をするのは、効果的です。
分娩後6~12週ぐらいの間に、再度ブドウ糖負荷試験を行い、糖尿病になっていないかを確認します。
Q:妊娠糖尿病にならないよう予防するには、日頃どんなことに気を付けたらいいかをお教えください。
A:バランスの良い食事と、適度な運動を心がけましょう。
妊娠糖尿病の発症リスクを高める主な原因としては、過度な体重増加や急激な体重増加があるといわれています。そのため、妊娠糖尿病を予防するには、バランスの良い食事をとり、適度な運動を心がけてください。つわりがおさまってくると食事が楽しくなり、つい食べすぎてしまう人もいるかもしれません。くれぐれもカロリーの摂りすぎには気をつけましょう。
妊娠の経過が順調だった場合、いきなり「妊娠糖尿病です」と言わるとひどく落ち込んでしまう妊婦さんもいるようです。ただ、そんなに深刻に考えなくて大丈夫!「生活を見直すきっかけ」と思い、乗り切るようにしてくださいね。
ゼクシィBaby WEB MAGAZINEの記事
妊娠時期別記事
杉山太朗先生
医学博士。田園調布オリーブレディースクリニック院長。
2001年信州大学卒業後、東海大学医学部付属病院、東海大学医学部専門診療学系産婦人科講師を経て、2017年に田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。やさしい先生のお人柄とわかりやすくソフトな説明に惹かれ、遠方から通う患者さんも多い。4人のお子さまのパパ。
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